No.48
#[AV出演被害防止・救済法]
6月23日からAV出演被害防止・救済法が施行されました。
AV出演被害防止・救済法が施行される前日(2022年6月22日)のことです。
警察庁は、配下の各警察に対して、AV出演被害の取り締まりに関する2つの通達を発しました。
2022年6月22日、警察庁がAV出演被害に関して発した2つの通達
●アダルトビデオ出演被害問題に係る対策の推進について(通達) (※参考。当ブログ)
●性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律の施行について(通達) (※参考。当ブログ)
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前回の当ブログ(2022年7月15日)にひきつづき、本日も、
アダルトビデオ出演被害問題に係る対策の推進について(通達)
についてみてみます。
2022年6月22日 警察庁 アダルトビデオ出演被害問題に係る対策の推進について(通達)
警察庁は、AV出演強要問題が公然化した2016年から、同問題の「対策の推進」に関する通達を出してきました。
発出の推移は以下のとおりです。
<AV出演被害に関する警察庁の通達>
①平成28年(2016年)6月28日 警察庁丁保発第119号「アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について(通達)」
↓
②平成29年(2017年)3月31日 警察庁丁保発第40号 警察庁丁少発第80号「アダルトビデオ出演強要問題及びいわゆる「JKビジネス」問題に対する緊急対策の推進について(通達)」
↓
③平成30年(2018年)3月26日 警察庁丁保発第45号「アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)」
↓
④令和元年(2019年)7月11日 警察庁丁保発第63号「アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)」
↓
⑤令和4年(2022年)3月24日 警察庁丁保発第65号「アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)
↓
⑥令和4年(2022年)6月22日(※今回) 警察庁丁保発第114号「アダルトビデオ出演被害問題に係る対策の推進について(通達)」
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各々の通達には、「留意事項」が記されています。
本日は、各「留意事項」の内容を見比べてみます。
留意事項
①平成28年(2016年)6月28日
警察庁丁保発第119号
アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について(通達)
(※下図は、警察庁丁保発第119号より)

(再掲。2016年通達)
2 契約に関する相談を受理した際の留意事項
民事における契約について、
ア 一般論として、女性側がAVへの出演を承諾していなければ、AVに出演することを内容とする契約としては成立しておらず、また、AVへ出演する契約として成立はしたとしていても、錯誤に基づくものであれば、その契約は無効である
イ 詐欺や脅迫に基づくものであったり、女性が20歳未満であれば、AVへの出演を承諾した意思表示を取り消すことができる
ウ AVへ出演する契約として有効に成立していたとしても、個別事情に基づき女性側から契約の解除をすることができるなどと解釈する余地もある
エ よって、
○ 当初はモデル契約等として、AVへの出演があることを知らずに女性が契約した
○ 「AVはないから」等とだまされて契約した、脅されて契約した
○ 当初はAVへの出演を承諾したが、その後、出演することが嫌になった
等の訴えがあった場合には、女性が出演を拒否できる可能性は高いが、もっとも、その契約について民事裁判でどのように認定・判断が下されるかは、個別事情によらざるを得ない
と解されているので、AVへの出演に関する契約等の相談を受理した際は、これらを踏まえた適切な助言を行った上で、法テラス、弁護士等専門機関の紹介を行うなど、適切に対応すること。
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②平成29年(2017年)3月31日
警察庁丁保発第40号 警察庁丁少発第80号
アダルトビデオ出演強要問題及びいわゆる「JKビジネス」問題に対する緊急対策の推進について(通達)
(※下図は、警察庁丁保発第40号 警察庁丁少発第80号より)

(再掲。2017年通達)
(3) 相談受理時の留意事項
アダルトビデオ出演強要に係る相談を受理した際の留意事項については、 「アダルトビデオへの強制的な出演等に係る相談等への適切な対応等について」 (平成28年6月17日付け警察庁丁保発第119号)により通達しているところ、引き続き、本通達に基づき、この種の相談に適切に対応すること。
(※「前年の通達の『留意事項』と同じ」と言っている。)
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③平成30年(2018年)3月26日
警察庁丁保発第45号
アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)
(※下図は、警察庁丁保発第45号より)

(再掲。2018年通達)
(3) 留意事項
ア アダルトビデオへの出演に関する契約等の相談を受理した際は、下記事項を踏まえた適切な助言を行った上で、法テラス、弁護士等専門機関の紹介を行うなど、適切に対応すること。
(ア) 契約について民事裁判でどのように認定・判断が下されるかは、個別事情によらざるを得ないが、一般論として、女性側がアダルトビデオへの出演を承諾していなければ、アダルトビデオに出演することを内容とする契約としては成立しておらず、また、アダルトビデオへ出演する契約として成立したとしていても、錯誤に基づくものであれば、その契約は無効である。
(イ) 詐欺や脅迫に基づくものであったり、女性が20歳未満であれば、アダルトビデオへの出演を承諾した意思表示を取り消すことができる。
(ウ) アダルトビデオに出演する契約として有効に成立していたとしても、個別事情に基づき女性側から契約の解除をすることができるなどと解釈する余地もある。
(エ) よって、
○ 当初はモデル契約等として、アダルトビデオへの出演があることを知らずに女性が契約した
○ 「アダルトビデオではないから」等とだまされて契約した、脅されて契約した
○ 当初はアダルトビデオへの出演を承諾したが、その後、出演することが嫌になった
等の訴えがあった場合には、女性が出演を拒否できる可能性は高い。
イ アダルトビデオへの出演強要被害に係る相談者等から事情聴取を行う際には、性的プライバシーに関するものを含むものであるという特徴に十分配意し、聴取の方法、時間、場所等について配意するとともに、女性警察官等の適任者に対応させる、女性警察職員を立ち会わせるなど、相談がしやすい環境整備に努めること。
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④令和元年(2019年)7月11日
警察庁丁保発第63号
アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)
(※下図は、警察庁丁保発第63号より)

(再掲。2019年通達)
(3) 留意事項
ア アダルトビデオへの出演契約等に関する相談を受理した際は、下記事項を踏まえた適切な助言を行った上で、法テラス、弁護士等専門機関の紹介を行うなど、適切に対応すること。
(ア) 契約について民事裁判でどのように認定・判断が下されるかは、個別事情によらざるを得ないが、一般論として、相談者がアダルトビデオへの出演を承諾していなければ、アダルトビデオに出演することを内容とする契約としては成立していない。また、契約が錯誤に基づくもの(例:当初はモデル契約等として、アダルトビデオへの出演があることを知らずに契約した)であれば、その契約は無効である。
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⑤令和4年(2022年)3月24日(※前回)
警察庁丁保発第65号
アダルトビデオ出演強要問題に係る対策の推進について(通達)
(※下図は、警察庁丁保発第65号より)

(再掲。2022年3月通達)
(3) 留意事項
ア アダルトビデオへの出演契約等に関する相談を受理した際は、適切な助言を行った上で、法テラス、弁護士等専門機関の紹介を行うなど、適切に対応すること。
イ アダルトビデオへの出演強要被害に係る相談者等から事情聴取を行う際には、相談者等の立場や主張を十分に酌み取るとともに、契約書があることを理由に相談に十分に応じないなどの不適切な対応は避けること。
また、相談の内容が性的プライバシーに関するものを含むものであるという特徴に十分配意し、聴取の方法、時間、場所等について配意するとともに、相談者の希望を踏まえた性別の警察官等に対応させるなど、相談がしやすい環境整備に努めること。
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今回の通達に記されている「留意事項」は、以下のとおりです。
⑥令和4年(2022年)6月22日(※今回)
警察庁丁保発第114号「アダルトビデオ出演被害問題に係る対策の推進について(通達)」
(※下図は、警察庁丁保発第114号より)

(再掲。2022年6月通達)
5 留意事項
アダルトビデオ出演被害に係る相談者等から事情聴取を行う際には、相談者等の置かれた状況や心情を十分に酌み取り、契約書があること等を理由に相談に十分に応じないなどの不適切な対応はしないこと。
また、相談の内容が性的プライバシーに関するものを含むものであるという特徴から、聴取の方法、時間、場所等についても十分に配慮して対応すること。
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警察庁はこれまで、
「訴えがあった場合には、女性が出演を拒否できる可能性は高いが、もっとも、その契約について民事裁判でどのように認定・判断が下されるかは、個別事情によらざるを得ないと解されている」(※2016年、2017年)、
「訴えがあった場合には、女性が出演を拒否できる可能性は高い」(※2018年)、
「契約が錯誤に基づくもの(例:当初はモデル契約等として、アダルトビデオへの出演があることを知らずに契約した)であれば、その契約は無効である」(※2019年)
などというような勿体振った言い方をしてきました。
今年(2022年)の通達(3月と6月)からは、従前のような注釈がなくなりました。
今回(2022年6月)は、
「アダルトビデオ出演被害に係る相談者等から事情聴取を行う際には、相談者等の置かれた状況や心情を十分に酌み取り、契約書があること等を理由に相談に十分に応じないなどの不適切な対応はしないこと。また、相談の内容が性的プライバシーに関するものを含むものであるという特徴から、聴取の方法、時間、場所等についても十分に配慮して対応すること」
とだけ記しています。
(参考。今回の通達)
<AV出演強要に対して警察が適用する法律>
(※下記の赤字が、新たに追加された法律。)
● AV出演被害防止・救済法
●刑法 わいせつ物頒布等罪
●刑法 強制性交等罪
●刑法 淫行勧誘罪
●刑法 強要罪
●刑法 傷害罪
●刑法 暴行罪
●刑法 脅迫罪
●私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(※リベンジポルノ防止法)
●職業安定法
●労働者派遣法
●売春防止法
●著作権法
●児童福祉法
●児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(※児童買春・児童ポルノ処罰法)
●風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(※風営法)
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悪党の捕獲が待たれます。
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(参考)
このたび成立したAV出演被害防止・救済法の正式名称は、
「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」
です。
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(推移。AV出演被害防止・救済法)
<衆議院>
(1)2022年5月25日(内閣委員会) 全会一致で可決(※参考)
・堤かなめ 議員(立憲民主党) ※当ブログ(前)、当ブログ(後)を参照。
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(2)2022年5月27日(本会議) 全会一致で可決(※参考)
↓
<参議院>
(3)2022年6月14日(内閣委員会) 全会一致で可決(※参考)
①塩村あやか 議員(立憲民主党) ※当ブログを参照。
②佐々木さやか 議員(公明党) ※当ブログを参照。
③梅村聡 議員(日本維新の会) ※当ブログを参照。
④倉林明子 議員(日本共産党) ※当ブログを参照。
↓
(4)2022年6月15日(本会議) 可決(※参考)。成立
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