“刑法の性犯罪規定の改正” 【改正案の叩き台をつくる会議】 ぱっぷす(PAPS)の他に、AV出演強要問題に造詣の深い矢野恵美教授も招かれました(その1)

法務省はいま、刑法の性犯罪規定を改正する作業を進めています。

(参考。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会
  ・2021年11月29日 第2回刑事法(性犯罪関係)部会

上述のとおり法制審議会は3か月前(2021年9月16日)、上川陽子法務大臣から、刑法の性犯罪規定の改正に関する諮問をうけました。

法制審議会は、刑事法(性犯罪関係)部会を設置して、改正法案の叩き台づくりを開始しました。

刑事法(性犯罪関係)部会は、つい先日(2021年11月29日)、2回目の部会を開催しました。
会議の主たる内容は、専門家からのヒアリングでした。

2021年11月29日 第2回刑事法(性犯罪関係)部会 議事概要

(ヒアリング)について
以下の6組10名の方から、ヒアリングを実施した。

・桝屋二郎 氏(東京医科大学精神医学分野准教授)

・佐保田美和 氏(Safe Campus代表)、本田義明 氏(Safe Campus)、中村彩夏 氏(Safe Campus

・西田公昭 氏(立正大学心理学部対人・社会心理学科教授)

・安藤久美子 氏(聖マリアンナ医科大学神経精神科学准教授)

矢野恵美 氏(琉球大学法科大学院教授)

金尻カズナ 氏(NPO法人ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)理事長)、岡恵 氏(理事)、後藤稚菜 氏(相談員)

(再掲。第2回刑事法(性犯罪関係)部会 議事概要)
金尻カズナ 氏(NPO法人ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)理事長)、岡恵 氏(理事)、後藤稚菜 氏(相談員)

ぱっぷすの方々は、日々、AV出演強要被害に取り組んでいます。

(参考。当ブログ)
ぱっぷすの活動に関する最近の報道>
2021年12月7日
2021年12月8日

(再掲。第2回刑事法(性犯罪関係)部会 議事概要)
矢野恵美 氏(琉球大学法科大学院教授)

矢野恵美教授は以前、AV出演強要問題に関する内閣府のヒアリングで、所論をのべたことがあります。
本日は、このときの論説をふりかえってみます。

AV強要に関する矢野恵美教授の論説(その1)

2016年9月12日 第83回女性に対する暴力に関する専門調査会

矢野恵美 琉球大学 大学院法務研究科 教授
「アダルトビデオへの出演強要ー刑事法・北欧法の観点からー」
資料
議事録

(2016年9月12日 第83回女性に対する暴力に関する専門調査会「議事録」より、引用。)

2016年9月12日 矢野恵美 琉球大学 大学院法務研究科 教授

(略)、本日は、あくまでもAVに自主的に出たわけではない、AV出演を強要されたという方について、刑事法で何ができるのかということを考えていきたいと思っております。

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2016年9月12日 矢野恵美 琉球大学 大学院法務研究科 教授

(略)、本日はむしろ18歳以上で、強要されてAVに出るという方をイメージして、刑法の観点から考えていきたいと思っております。

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2016年9月12日 矢野恵美 琉球大学 大学院法務研究科 教授

AVへの出演強要につきましては、日本の現行刑法でも処罰の可能性はあるとは考えております。
まず第一に、契約自体が無効になる場合がございます。
これは例えば契約の内容が公序良俗に反するなど、民事法の観点から契約自体が無効になるということです。
ヒューマンライツ・ナウで御紹介なさっていた判例などもこれに当たるかと思います。
一方で、こういった出演の契約をするようにおどす脅迫罪、人をおどすことによって義務なきことをさせる強要罪というのが考えられ得るわけです。
さらに、契約が適法に成立した場合、または契約が無効であったとしても、さらに現場で性犯罪が起こり得るという構造になっているかと思います。
ただ、ここで文を挙げておりますが、

(※矢野恵美教授の資料より)

参考(刑法)

・ 第222条 脅迫罪
 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、
前項と同様とする。

・ 第223条 強要罪
 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務
のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。

3 前2項の罪の未遂は、罰する。

脅迫罪、強要罪に関しましては
生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害を加える
という脅迫内容でなければならないという絞りがあるために、例えば、下着姿などを誰彼構わずばらまくということであれば、名誉を害することに該当する可能性があるかもしれませんけれども(註:名誉毀損罪は「公然と」事実を摘示する必要があり、「公然と」とは多数または不特定の者を指す)、ちょっと心配しておりますのは、親御さんにばらすぞということですと、ここの要件にはもしかしたら当たらない可能性もあるだろうということがございます。

次に、契約自体は有効になっている場合でも、現場で意に反する行為をさせられる場合は、これが必ずしも強制わいせつとか強姦に当たらなくても、強要罪という可能性はあるわけでございます。
これにつきましては、先ほどの「生命、身体、自由、名誉」に当たることも多いのではないかと思います。
それでは、性犯罪はどうなっているかということですが、今日の会議の中でもご紹介がありましたように、現在、もしかしたら性犯罪規定自体は改正になるかもしれませんので、そうするとまた状況が変わってくると思います。
本日、配付されておりました資料1の38ページのところに、性犯罪規定の改正予定の部分が①から⑤まで載っておりますので、こちらの見直しによって多少変わってくるところもあるかとは思います。

(※2017年の刑法の性犯罪規定の改正)

(参考。法務省の資料より)

ただ、現在は強姦罪と強制わいせつ罪が一応基本になっておりますので、実際に現場で暴力が振るわれて、これが使えるかということですが、強姦罪における暴行、脅迫というのは
被害者の抵抗を著しく困難にする程度
という、割と強い要件が設けられているために、強要されて嫌々出演していても、現場で強い暴行・脅迫これに当たらないかのように見えてしまうという問題が実際にあるのではないかと思います。

ただ、判例を見ますと、脅迫と姦淫行為強姦罪は男性器の女性器への挿入だけに現在は限定されておりますので、それを姦淫と呼びますが、脅迫と姦淫の間の期間が2週間あったというケースで、実際に性行為に及んだときには被害者は同意していたという形でも、強姦罪を認めた判例もございます。

また、強制わいせつ罪に関しましては、つまり、男性器の女性器への挿入以外の行為に関しましては、暴行、脅迫はそこ(「被害者の抵抗を著しく困難にする程度」)までの強度は求められないという判例も出ておりますので、こちらは比較的使おうと思えば使えるのではないかと思っております。

また、強制わいせつのケースで、被害者からしたらわいせつな行為であっても、加害者にわいせつな意図(主観的要素)がなかったということで争われるケースもあるかと思いますが、現在、強制わいせつ罪の行為者に、それが被害者にとって性的なものであるという意識があれば、自身にわいせつな意図がなくてもよいという判例、解釈等もございますので、強制わいせつ罪のほうに関しては、現場で暴力があった場合、強姦罪よりはすっと成立しやすいのではと思っております。
この辺は既に御承知かと思います。

もう一点、これは刑法になじみのある方かどうかによってちょっと違うかと思うのですが、少し飛ばしまして、178条に準強制わいせつ及び準強姦罪というものがございます。
こちらは、人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、男性器を女性器に挿入すれば、準強姦罪、それ以外のわいせつ行為をすれば準強制わいせつ罪になるというようになっております。

こちらを実際に使った判例としまして、被害者をだまして承諾を得た場合に、抗拒不能と判断した例もあるということで、これはモデル志望の女性を会社社長が密室に閉じ込めて、全裸にして写真撮影を行った事例を、準強制わいせつである、被害者が抗拒不能な状態に陥っていたと判断したもので、これは比較的今回のような事例に親和性があるのではないかということで、御紹介させていただいております。

要するに、モデルになるためにはそのわいせつ行為を我慢しなければならないんだと被害者が無知や未熟さから思い込んでしまうような状況に追い込まれる。
社長とモデル志望者という地位の関係の中においては、そのような強制的なことは被害者を抗拒不能に陥らせたといってよいであろうという判例でございます。

これは実は後ほど御紹介させていただきますが、スウェーデンにも似たような条文があり、それを使用してはどうかという提案もございました。

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2016年9月12日 矢野恵美 琉球大学 大学院法務研究科 教授

そのようなわけで、アダルトビデオへの出演強要につきましては、日本の現行刑法でも処罰の可能性はあると考えております。
ただ、現場にいる人間だけではなく、スカウトや会社の役員が処罰できるかというのは、また厳しいところではございますが、単純に刑法の理論だけでいえば、一定の要件を満たせば(共謀)共同正犯、教唆犯、幇助犯等の可能性もゼロではないと思っております。

ちなみに、ごく簡単に説明いたしますと共謀共同正犯というのは、例えば犯罪に当たるような内容を事前に相談したり、指示したりして、正犯としての役割を果たしているけれども、現場には行かないという人が共謀共同正犯。

教唆犯というのは字のごとくそそのかすということで、そういうことをするつもりがなかった人に、そういうことをやったらいいではないかと言うもの。幇助犯というのは犯行を容易にするような共犯の形態でございます。

このようなものもございますので、できなくはないと思うのですが、現実的にはなかなか要件を満たし切れていないということがあろうかと思います。

AV出演強要関係の行為の刑法における処罰の困難さですが、何がそんなに困難かと申しますと、基本的に密室で行われるということだと思います。

実際の現場として、加害者は複数で大人であること、被害者は1人で若い場合も多い。
もちろん若くなくても構いません。
ただ、複数対1人、しかも複数の加害者の方はさまざまに理論武装をして臨んでいる可能性があるということです。
そのため、被害者は間違った知識を植えつけられている可能性が高い。
契約があるので訴えても犯罪にはならないといったおどし等があるために、そもそも警察に認知されないという問題もあります。
さらに警察に認知されても、密室の中で本当に犯罪に当たる行為が起こったのかということの立証が困難だということが、刑法による処罰を難しくしているのだと思います。

それでは、一切処罰できないのかということなのですが、少しここからは海外の知見に入っていきたいと思います。

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(再掲。2016年9月12日 矢野恵美 教授)
脅迫罪、強要罪に関しましては、(略)、親御さんにばらすぞということですと、ここの要件にはもしかしたら当たらない可能性もあるだろうということがございます

強要されて嫌々出演していても、現場で強い暴行・脅迫これに当たらないかのように見えてしまうという問題が実際にあるのではないかと思います

現場にいる人間だけではなく、スカウトや会社の役員が処罰できるかというのは、また厳しいところではございます

密室の中で本当に犯罪に当たる行為が起こったのかということの立証が困難だということが、刑法による処罰を難しくしているのだと思います

このたび、上川陽子法務大臣は、法制審議会に対して、以下の10項目の諮問をおこないました。

諮問第117号より、引用。)

2021年9月16日 諮問第117号

近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。

第一、相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備
一、刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法第178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。
二、刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。
三、相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。
四、刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。
五、配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。
六、性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。

第二、性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備
一、より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。
二、被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。

第三、相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処罰を確保し、その画像等を確実に剥奪できるようにするための実体法及び手続法の整備
一、性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。
二、性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。

明日も、矢野恵美教授が5年前の女性に対する暴力に関する専門調査会でのべた論説をみてみます。
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2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている

 (A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)(後編)に掲載されました。
2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。

(哲学者のウィトゲンシュタイン)
「絶望に終わりはない。自殺もそれを終わらせることはない。人が奮起して絶望を終わらせない限りは」

(明日のブログへつづく)



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