暴行・脅迫要件は撤廃されるのか(その9)。「ほとんどの被害者が裁判にたどり着けていない」「自分の被害は被害でない、という認識をして苦しんでいます」

現在、数多(あまた)の性犯罪者が野放しの状態になっています。
原因は、刑法の性犯罪規定にあります。

(例。刑法の性犯罪規定)

第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条(第177条)の例による。

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ご覧のとおり、暴行や脅迫を伴わない性犯罪は、無罪となります。
刑法の性犯罪規定は、「ざる法」です。

いま、法務省内において、この「ざる法」を改正する作業が進行しています。

(参考。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

上川陽子法務大臣は先日(2021年9月16日)、法制審議会に対して、以下の10項目の改正を諮問しました。

(2021年9月16日 上川陽子法務大臣 諮問第117号より、引用。)

2021年9月16日 諮問第117号

近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。
     記
第1 相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備

刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
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刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。

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刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
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配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。

(参考。現行刑法)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。

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第2 性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備

より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。

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被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。

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第3 相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処置を確保し、その画像等を確実に剥奪できるようにするための実体法及び手続法の整備

性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。

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性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。

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(再掲。諮問第117号
2021年9月16日 上川陽子 法務大臣
刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること

本日もひきつづき、前段の性犯罪に関する刑事法検討会で、暴行・脅迫要件、さらには抗拒不能要件についてどのような論議がなされたのかをみていきます。

暴行・脅迫要件の改正に関する論議(その9)
(※その1その2その3その4その5その6その7その8

その1その2その3その4その5 | ・・・2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会
その6その7その8 | その9 | ・・・2020年11月10日 第8回 性犯罪に関する刑事法検討会

(2020年11月10日 第8回性犯罪に関する刑事法検討会「議事録」より、引用。)

<12ページ>
2020年11月10日 山本潤 委員(一般社団法人Spring代表理事)

抗拒不能は狭過ぎるというのは、もちろんそうなのですけれども、

(参考。昭和33年6月6日の最高裁判決
その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度には達しないと認められるようなものであつても、その相手方の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲(しい)の環境その他具体的事情の如何と相伴つて、相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りると解すべきである

小西委員が言われたように、性暴力の実態からこの要件を考えていただければと思います。

Springが実施したアンケートでも、挿入被害1,274件のうち、起訴されたのは9件です。

先ほどなかなか判例が表に出てこないというお話もありましたけれども、ほとんどの被害者が裁判にたどり着けていない

その中で、自分の被害は被害でないという認識をして苦しんでいます。

先ほどのお話を伺っていて思ったのですけれども、やはり、こういう性暴力の実態が司法の現場で共有されていないので、同意についての認識が非常にばらばらなのではないかというふうに感じました。

法体系は違いますけれども、イギリスの2003年の性犯罪法に関して横山潔先生が出されていた本の中で、同意について記載されていたところがあります。
第74条で、ある者が選択によって同意した場合において、当該選択を行う自由と能力を有していたときは、本章の適用上、この者は同意したものとするという記載があります。
不同意を、自由能力が侵害された場合というふうに定めています。

この「自由」が問題となるのが、暴行・脅迫や地位・関係性の利用、家庭の構成員間における被害の場合であり、「能力」が問題となるのが、相手方の年齢や薬物や障害、その他疾患を利用した被害の場合という考え方です。

自由」が暴行・脅迫、「能力」が抗拒不能・心神喪失に対応するものであると考えられるので、やはりこの「能力」が奪われている状態というのを、幅広く定義していただきたいと思っています。

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<12ページ>
2020年11月10日 井田 良 座長(中央大学教授)

例えば、条文に
自由な能力を奪われた状態にして
というような文言を規定するというのはいかがですか。

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<12~13ページ>
2020年11月10日 山本潤 委員(一般社団法人Spring代表理事)

自由と能力を有していた場合には、同意したものとする、つまり、自由と能力は別で、どちらかを有していない場合は、同意ができる状態ではないというと理解しています。

ですから、先ほどの結婚の話のように、結婚をすると偽ってだましたというときも、その人が、成人で対等な関係であり、自由な選択ができる場合には、これは性暴力には当たらないのではないかというような理解ができる。

ただ、やはり、成人と13歳で差がある場合は、同意できる能力がないという考えができるのではないかと思います。

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<13ページ>
2020年11月10日 井田 良 座長(中央大学教授)

更に質問させていただくと、抗拒の著しく困難な類型の下に、刑の軽い別の類型を設けるという御趣旨ですか、それとも、類型を広げてそこに含ませ、法的には同じ処罰をすべきだということでしょうか。

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<13ページ>
2020年11月10日 山本潤 委員(一般社団法人Spring代表理事)

もともとは、この抗拒不能は、暴行・脅迫ではない被害者の状況を表しているというふうにされているわけですよね。

(参考。昭和33年6月6日の最高裁判決
その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度には達しないと認められるようなものであつても、その相手方の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲(しい)の環境その他具体的事情の如何と相伴つて、相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りると解すべきである

(参考。刑法)
177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(参考。刑法)
178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条(強制わいせつ罪)の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条(177条)の例による。

2020年11月10日 山本潤 委員(一般社団法人Spring代表理事)

そして、その抗拒不能によって、暴行・脅迫が用いられた場合以外の様々な性犯罪をきちんと拾えているという理解だったと思います。

しかし、なかなか拾えていないという現場からの意見や支援者の意見もあります。

例えば、薬物を用いた場合が認められにくいとか、障害の場合が認められにくいという場合があります。
しかし、そのような場合でも、被害の実態としては、抗拒不能と変わりないわけですから、その抗拒不能について、例えば、要件として、障害がある、酩酊であるというような形で、きちんと明文化するということで表に出すのですから、法定刑は同じでいいのではないかと思っています。

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<13ページ>
2020年11月10日 井田 良 座長(中央大学教授)

軽い類型を作るというのではなくて、重い類型に含ませてということでしょうか。

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<13ページ>
2020年11月10日 山本潤 委員(一般社団法人Spring代表理事)

はい、そうです。

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<13ページ>
2020年11月10日 井田 良 座長(中央大学教授)

よく分かりました。

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<13~14ページ>
2020年11月10日 宮田桂子 委員(弁護士)

この抗拒不能という概念に対して、いろいろ誤解もあるように思われてならないのです。

抗拒不能の概念は、被害者が抵抗できるわけがない状態に置かれたということです。

抗拒不能という言葉は、客観的にこのような状況があれば、あるいは、被害者の主観がこういうものであれば、抵抗することなく性的行為を受け入れるような状況であるという趣旨であり、規範的概念という難しい言い方をしますけれども、言ってみれば、その人がどう感じているか、どう思っているかということではなくて、普通、そのような立場に置かれた人であれば、どのような行動を取るのか、どう認識するのか、あるいは、普通こういう行動をしたときに、刑罰として非難を与えるべきなのかどうかという法律的な概念であって、生の事件における事実自体を示すのではないということです。

このような考え方を採っていけば、暴行・脅迫の177条(強制性交等罪)には当たらないけれども、178条(準強制性交等罪)には当たるという形で、177条(強制性交等罪)の起訴に対して、178条(準強制性交等罪)を予備的訴因として追加することも考えられますけれども、強気で177条(強制性交等罪)だけで起訴して無罪というような事案も、あるようにも思います。

(参考。刑法)
177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(参考。刑法)
178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条(強制わいせつ罪)の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条(177条)の例による。

現在、検察官が178条(準強制性交等罪)のこの抗拒不能の要件をうまく使い切れているのかどうかという問題があり、先ほど指摘しましたように、うまく使っている裁判例を共有化していく努力の方が、私は先ではないかと思います。

ただ、問題だと考えますのは、この抗拒不能についても下限が5年です。

過去において、178条(準強制性交等罪)では、相当緩和されたような事実についても抗拒不能に当たると認められていましたけれども、最近の解釈が、前回の改正の際の検討会のときよりも、少し低調に見えるのは、やはり、この下限5年という重い刑罰を科すことになり、抗拒不能の要件について、暴行・脅迫に比肩するほどの抵抗困難な状況を作り出しているかどうかというような判断の慎重さを招いていることもあるのではないかと思います。

なお、山本委員がイギリス法についての言及をしておられたのですけれども、不同意性交罪については、イギリスでは、その不同意の立証が非常に難しいということで、起訴されない、あるいは、無罪となってしまうというような事例もあるというふうに聞いております。
私はこの辺は専門ではないので、木村委員が御専門だと思うのですけれども、その辺について教えていただければ有り難いと思っています。

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明日も、性犯罪に関する刑事法検討会における177条(強制性交等罪)と178条(準強制性交等罪)の論議をみてみます。
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2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている

 (A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)(後編)に掲載されました。
2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。

(哲学者のウィトゲンシュタイン)
「絶望に終わりはない。自殺もそれを終わらせることはない。人が奮起して絶望を終わらせない限りは」

(明日のブログへつづく)



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