暴行・脅迫要件は撤廃されるのか(その5)。「177条(強制性交等罪)が成立しないときは178条(準強制性交等罪)が成立するという指摘もあるが、実際はそうでない」

巷間、日本の刑法の性犯罪規定は性犯罪者にとってありがたいきまり、と揶揄されています。
実際、性犯罪者が日本で性犯罪をおこなっても、余程のことがないかぎりは捕まりません。
いま法務省内で、この刑法の性犯罪規定を改正するための作業が進行しています。

(参考。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

上川陽子法務大臣は先日(2021年9月16日)、法制審議会に対して、暴行・脅迫要件の撤廃などをふくむ以下の10項目の改正を諮問しました。

(2021年9月16日 上川陽子法務大臣 諮問第117号より、引用。)

2021年9月16日 諮問第117号

近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。
     記
第1 相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備

刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
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刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。

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刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
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配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。

(参考。現行刑法)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。

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第2 性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備

より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。

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被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。

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第3 相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処置を確保し、その画像等を確実に剥奪できるようにするための実体法及び手続法の整備

性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。

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性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。

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(再掲。諮問第117号
2021年9月16日 上川陽子 法務大臣
刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること

(再掲。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

前回にひきつづき、本日も、前段の性犯罪に関する刑事法検討会暴行・脅迫要件、さらには抗拒不能要件についてどのような論議がなされたのかをみていきます。

暴行・脅迫要件の改正に関する論議(その5)
(※その1その2その3その4

2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会
(※

(2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会「議事録」より、引用。)

<20ページ>
2020年8月27日 井田 良 座長(中央大学教授)

では、時間の関係もありますので、(177条に関する論議は)ひとまずそのぐらいにして、次は、178条(準強制性交等罪)に関する問題について、御意見ございますでしょうか。

(参考。刑法)
<現在>

第176条

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。

13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。

13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条

1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。

2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条(177条)の例による。

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<20ページ>
2020年8月27日 渡邊ゆり 委員(東京地方検察庁検事)

地検の現場で捜査・公判を担当しておりますけれども、178条(準強制性交等罪)抗拒不能という言葉が用いられていまして、しかも、心神喪失と並んで書かれておりまして、実際にその範囲がどうなのだろうなということは、例えば、起訴・不起訴を決める段階などで悩む場合が多いところでございます。
実際に、今回見せていただきました資料を見ましても、178条(準強制性交等罪)についての裁判例でも一審と二審で判断が分かれているといったものも、やはり、178条(準強制性交等罪)の要件の定め方が背景としてあるのではないかなというふうに思います。
例えば、今までお話に出ていますように、薬物、飲酒その他、そういった問題状況列挙するというのも非常に有用な手法かと思いますし、また、そういったものを列挙するときに、一つ現場でやっていて思うことは、薬物だけが原因、あるいは飲酒だけが原因ではなくて、それらの一つ一つの要素が足し算のようになって、問題状況が生じているというところもございますので、そういったことが分かるような要件というのが望ましいのかなというふうに思います。
先ほど、177条(強制性交等罪)が成立しないときは、必ずや178条(準強制性交等罪)が成立するというような御指摘もございましたけれども、

(参考。宮田桂子 委員)
「177条(強制性交等罪)の暴行・脅迫要件を撤廃すべきであるという御議論なのですが、実は、177条(強制性交等罪)が成立しない場合には178条(準強制性交等罪)で救っている、そういうような判決はかなりございます」
「例えば、親から強姦されたということで、177条(強制性交等罪)で起訴されたものについて、どうも子供の方は、特に抵抗も示していないし、暴行・脅迫もなかったという前提で、お父さんが大好きなので、お父さんから嫌われたくないので、そのような行為を受け入れたという形で、178条(準強制性交等罪)の成立を認めた案件もございますし、暴行・脅迫が非常に弱いのだけれども、恐怖心で被害者がフリーズしてしまった、そのような精神状態で抵抗できるわけがないということで178条(準強制性交等罪)を成立させた事例もございます」
「今、お話を伺っておりますと、177条(強制性交等罪)だけの御議論のように聞こえてしまい、177条(強制性交等罪)と、それを補うものとして178条(準強制性交等罪)があるのだというところは、共通認識にしなければならないのではないかというのがまず1点」

「三つ目です。暴行・脅迫要件について、小西委員から、このような事例が有罪にならなかったのだという御指摘がありましたけれども、そこには検察官の立証の問題はなかったのかという視点も必要かと思います。検察官が、被害者がフリーズしてしまうような精神状態について理解し、きちんと立証していれば、177条(強制性交等罪)がもしも成立しなかったとしても、178条(準強制性交等罪)が必ずや成立するはずなのです」
「ですから、条文の問題なのか、立証の問題なのか、その辺のところをもう少し切り分ける必要があると思います」

私の実感としては、起訴時はもとより、公判段階でも、そういうことはないと考えておりまして、178条(準強制性交等罪)について、適正な処罰範囲の在り方とその構成要件の定め方を御検討いただきたいと思っておるところです。

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<20~21ページ>
2020年8月27日 小西聖子 委員(武蔵野大学教授)

先ほど、「177条(強制性交等罪)で救えないものは178条(準強制性交等罪)にいっているはずだ」というふうに宮田委員はおっしゃったのですけれども、実際にそうではないということは私も言いたいと思っています。
例えば、資料14(※非公開)の8ページのところですね。準強制性交等罪の事例の1で挙がっているものですけれども、実は、このケースは、私が直接鑑定をしたケースでございます。
一審では抗拒不能について非常に厳しい考え方がとられていまして、それが二審で覆ったとなっていますけれども、「抗拒不能」についてこういう一審のような考え方が可能なのであれば、とても、性的虐待のケースの実情というか、その人たちの被害について、適切な捉え方はできないと思います。
例えば、一審では、被告人に服従、盲従せざるを得ないような強い支配・従属関係にあったとまでは認め難いというふうに言っているのですが、これは、虐待における被虐待者のコントロールの実態について全く知らない人が言っていることだと思います。
日常生活ができなくなるわけではありませんし、むしろ、被害については非常に過小に表現することこそ、こういう症状の表れなのですね。
この方は、本当に、鑑定の最初のうち、何時間も被害のことや加害者のことを感情と共に語ることがなかったですし、しばらくして初めて、どういうふうに苦しかったかということは言えましたけれども、このような回避的な態度は、性的虐待の被害者に一般的なものです。
そういう中で、抗拒不能というのが絵に描いた餅のような形で考えられている実情があるのだということを、やはりちょっと知っていただきたいと思います。
法律のところまで私は言えませんけれども、こういうケースが実際に起こって、十分に理解がされないまま、判決が下りていることがあることは知っていただきたいと思います。

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<21ページ>
2020年8月27日 宮田桂子 委員(弁護士)

私は、178条(準強制性交等罪)で全部救えると言った覚えはありません。
そもそも178条(準強制性交等罪)で救えるのはどういう案件かといえば、これは、検察官が予備的な訴因として、178条(準強制性交等罪)の公訴事実を提示した場合です。
つまり、検察官が、こういう事実が178条(準強制性交等罪)に当たるという審判対象を設定した場合においては、177条(強制性交等罪)ではなく178条(準強制性交等罪)で、裁判所が有罪を認定できるという問題であります。
ですから、判断について、問題だというときに、そのとき検察官はどのような立証をしたかどのような審判対象を設定したかという問題意識は必ず持たなければならないと思っています。
そして、178条(準強制性交等罪)の抗拒不能というのは、主観的不能であるという説もかなり強い、つまり、当該本人が抵抗できないような状態になってしまう、先ほどのフリーズであるとか、あるいは、それこそグルーミング等も含めて、相当幅広に解釈し得る概念だということなのです。
ですから、これが狭いのだというふうに宣伝されることによって、みんながそういうふうに思い込んでいるけれども、私は、実際の判例等を見ていると、必ずしもそうではないのだということを思っています。
そうではない判決もあるということは間違いありません。
しかしながら、かなり幅広に、きちんと認定している判決もあるということは御指摘申し上げたいと思います。

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<21~22ページ>
2020年8月27日 井田 良 座長(中央大学教授)

私も、177条(強制性交等罪)と178条(準強制性交等罪)というのは、我々が普通に考えている以上に、連続性というのでしょうか、共通性というのでしょうか、そういうものを持っているのではないかという感じがしております。
いずれにしても、議論が尽きないところでございますけれども、時間の関係もございますので、本日のところは、第2の「2」

(参考。検討すべき論点
「〇 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件、準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不能の要件を撤廃し、被害者が性交等に同意していないことを構成要件とすべきか」

「〇 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件、準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不能の要件について、判例上必要とされる『被害者の抗拒を著しく困難にさせる程度』を緩和した要件とすべきか」

「〇 強制性交等罪や準強制性交等罪の構成要件として、暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能に加えて、又はこれらに代えて、その手段や状態を明確化して列挙すべきか」

「〇 被害者が性交等に同意していないことについて、一定の行為や状態が認められる場合に被告人側に立証責任を転換し、又はその要件の充足を推定する規定を設けるべきか」

「〇 行為者が、被害者が性交等に同意していないことの認識を有しない場合にどのように対処すべきか」

についての議論はこの辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。

文言と、解釈の実際との間にかなり乖離があるのだとか、それから、抗拒困難という言葉自体が、適切とはいえないメッセージを発しているのだというような、非常に貴重な御指摘もありました。
この点については、今日述べられました御意見や、他の論点についての一巡目の検討結果も踏まえて、二巡目の検討で更に深めてまいりたいと思います。

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明日も、性犯罪に関する刑事法検討会における177条(強制性交等罪)と178条(準強制性交等罪)の論議をみてみます。
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2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている

 (A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)(後編)に掲載されました。
2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。

(哲学者のウィトゲンシュタイン)
「絶望に終わりはない。自殺もそれを終わらせることはない。人が奮起して絶望を終わらせない限りは」

(明日のブログへつづく)



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