暴行・脅迫要件は撤廃されるのか(その3)。「『同意のないことの徴表が抵抗である』という言い方そのものに、とても不正確なところがある」

上川陽子法務大臣は2か月前(2021年9月16日)、法制審議会に対して、刑法の性犯罪規定の改正を諮問しました。
諮問は、10項目に及びます。
内容は以下のとおりです。

(2021年9月16日 上川陽子法務大臣 諮問第117号より、引用。)

2021年9月16日 諮問第117号

近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。
     記
第1 相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備

刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
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刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。

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刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。

(参考。現行刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
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配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。

(参考。現行刑法)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
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性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。

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第2 性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備

より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。

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被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。

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第3 相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処置を確保し、その画像等を確実に剥奪できるようにするための実体法及び手続法の整備

性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。

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性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。

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(参考。広辞苑)
諮問
意見を尋ね求めること
下の者や識者の意見を求めること

(参考。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

(再掲。諮問第117号
2021年9月16日 上川陽子 法務大臣
刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること

上川陽子法務大臣の諮問をうけて、法制審議会は、改正法案の叩き台づくりを開始しました。
先日(2021年10月27日)、第1回刑事法(性犯罪関係)部会を開きました。
刑法改正が現実のものとなってきました。

本日もひきつづき、暴行・脅迫要件について、前段の性犯罪に関する刑事法検討会でどのような論議がおこなわれたのかをみていきます。

(参考。当ブログ)
性犯罪に関する刑事法検討会での暴行・脅迫要件の論議>
2021年11月18日(その1)
2021年11月19日(その2)

暴行・脅迫要件の改正に関する論議(その3)
(※その1その2

2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会
(※

(2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会「議事録」より、引用。)

<13~14ページ>
2020年8月27日 小西聖子 委員(武蔵野大学教授)

小島委員に総括的に言っていただいたのですけれども、

(※注)
昨日の当ブログを参照。

私は、同意のないことの徴表抵抗であるという言い方そのものに、とても不正確なところがあると思いますし、抵抗ができないことがあるということが常識になっているように思えないので、私が実際に鑑定した例なのですが、同意抵抗分かれている例を御紹介したいと思います。

突然見知らぬ男性に室内で性交を迫られて、自分は性交したくないという意思ははっきりしていたが、意識清明のまま、被害の間、体が動かなくなったケースがあります。
性交されてしまったケースです。
詳しく聞くと、体の震え、冷や汗、動悸などが同時に生じていました。
「Tonicimmobility」(トニック・イモビリティ)という概念で説明できる反応です。
本人の意思や意識とは関係なく生じる進化的な起源を持った生物学的な反応といわれています。
司法の過程においては、逃げられそうなのに抵抗しないのはなぜか、という視点でしか捉えられていなかったと思います。
そういう意味では、抵抗同意というのを一つのものとして、少なくとも先ほどから、「徴表」と言われていますけれども、徴表として、ここだけを重要に考えるのは非常に問題があると思っています。
そういう意味では、広い事情を拾うべきだという言い方に私は賛成です。

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<14~15ページ>
2020年8月27日 齋藤梓 委員(臨床心理士)

私も先ほど申し上げたとおり、

(※注)
一昨日の当ブログを参照。

そして、小島委員などがおっしゃっているとおりで、

(※注)
昨日の当ブログを参照。

その人の感情とか意思をないがしろにして、その人の体の侵襲をするというのは心身の侵害で、人生に深刻な影響を及ぼす暴力なので、それが適切に司法で認定されるということを願っているのですね。

つまり、不同意性交というのが適切に罪として認識されることを望んでおります。
ただ、性的同意という概念が浸透していない日本で、なかなか不同意性交という記載のみだと判断が難しいのであれば、ほかの文言を列挙していただくということにも賛同はしております。
委員の方々が今までおっしゃっていたとおり、暴行・脅迫というのは不同意の徴表であるということですけれども、運用に任せているからこそ、一方で幅広に解釈され、一方で被害届が受理されなかったり、不起訴であったりという事案が生じているので、暴行・脅迫ということで、その性交が意思に反するものが明示されるとだけしているということが、やはり問題なのではないかと思っております。
これも、ほかの委員の皆さんもおっしゃっていることですが、性交が意思に反しているならば人は抵抗するはずだとか、その抵抗が抑圧される暴行・脅迫があったなら、抵抗がなかったとしても不同意であるという考えは、やはり、私も臨床に携わっている中で、まだまだそれがずっとあるのだなということを感じています。
小西委員もおっしゃっていたとおり、精神医学とか心理学で明らかになっているとおり、「Tonic immobility」(トニック・イモビリティ)の状態や解離状態というのは、明らかな暴行・脅迫がなくても生じますし、力関係が作り出されて抵抗が抑圧されていくというような状態も、暴行・脅迫がなくても生じます。
人は、本当にたやすく抵抗できない状態になるということを、もっと知っていただきたいですし、それが適切に評価されるような文言になることを望みます。
資料22の不起訴事件の調査資料(※非公開)などを見ますと、確かに、読みようによって、それを犯罪ということが難しいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、性被害は、そもそも被害者の体験と加害者の認識が大きく異なる被害であるということは、しっかり考えた方がいいと思います。
また、どのような行為が相手を深刻に傷つける性犯罪なのかということが法律で定められていないというのは、加害者も自分の行為が性犯罪であるということを認識できないということにつながります。
それは、非常に問題なのではないかと思うのです。
私は、法律の具体的な文言に全く明るくないので、状態として述べさせていただきたいのですが、暴行や脅迫よりも言葉上程度の軽い脅しとか体を押さえつけるであっても抵抗できなくなりますし、継続的な被害は、そもそも強要された上であっても、一度性交したという事実自体が、その後の被害者の抵抗を抑圧していきますし、だまされるなどして密室に連れ込まれた時点で、抵抗したら危害を加えられると感じて、体が動かなくなるということも普通に生じますし、先ほどの小西委員の例でもあったような、予期していないような言動で混乱し、体が硬直するということもありますし、ドライブだけ、キスだけと思っていたのに、人気のない場所に連れていかれて性交を強要されれば動けなくなりますし、逃げられないと思って抵抗はできなくなります。
飲酒や薬物、睡眠や精神疾患、知的障害、そうしたいろいろなことに乗じたり、巧妙に、グルーミングのように心理的な操作を行う、力関係を作り出す、洗脳するといったこと、あるいはその人の脆弱性とか、様々な意味での立場の弱さとか、あるいは利害関係であるとか、依存を利用した場合など、そもそも抵抗ができなくなるということをきちんと反映していただきたいと思っております。
先ほど、被害者の意思に決定的な位置付けを与えることが負担という御意見もございましたけれども、そもそも現在の日本では、被害者が、自分が被害を受けたということを認識できていないという状態がありまして、そのことがとても大きな問題で、不同意性交は犯罪であるということを知らしめるということは非常に重要なことなのではないかと考えております。

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<15~16ページ>
2020年8月27日 宮田桂子 委員(弁護士)

(前略。)
(略)同意がないということの立証を行うということになりますと、ある程度、こういう場合には同意がないのだという推定規定を置くにしても、一つずつ置いてあるものに対する反証、例えば、被害者がその場で泣いていたというような事情を置くとします。
そうすると、被害者がなぜ泣いていたのかというような、被害者の非常に個人的な事情についても争点になり、争点の拡散が生じるということは間違いないのだろうと思っております。
ですから、同意なき性交罪を作った場合の立証の負担というのは、被害者にあるだけではなくて、争点が拡散していって、訴追する側についても、防御する側についても、非常に難しい問題が生じる場合があり得るのではないかということを指摘したいと思います。
(後略。)

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<16~17ページ>
2020年8月27日 橋爪隆 委員(東京大学教授)

端的な印象を申し上げますと、処罰すべき実態と、それをどのように刑罰法規として規定するかということは、分けて検討する必要があるような気がしております。
すなわち、被害者の意思に反する性的行為重大な法益侵害であり、これら全てを処罰の対象とするという発想自体は全く正当な判断であり、これが議論の出発点をなすことは明らかであるように思います。
もっとも、そのために、どのような処罰規定を設けることが適切か、特に、不同意性交罪を創設することが妥当かについては、更に二つの点について吟味した上で検討する必要があると考えます。
第一点は、仮に、不同意を成立要件としましても、被害者が同意していなかったこと、また、被告人が被害者の不同意を認識していたことについては、刑事裁判で厳格に証明する必要があるということです。

そして、被害者の内心自体を直接的に証明することは困難である以上、実際には外部的・客観的な事実関係から、同意があったか否かを認定する必要が生じます。

現行法の暴行・脅迫要件や抗拒不能要件は、正に、不同意を客観的に推認する要素として機能していたわけです。

したがって、仮に暴行・脅迫要件を撤廃して、不同意を成立要件とするとしても、不同意の事実については厳格な証明が必要であり、そのためには、判断資料となり得る客観的事実を明確化することが必要であると思います。

仮に、先ほどから御指摘がありましたように、暴行・脅迫要件が判断資料としては不十分であるというのであるならば、新たな行為態様を追加する、あるいは、新たな客観的な状況を追加するというアプローチもあり得るのかもしれません。

第二点ですが、不同意という言葉自体が、実は、かなり幅がある概念である点に注意する必要があると思います。

もちろん、相手と性行為を行う意思が全くなかったが、恐怖心から抵抗できず、性交に至った場合のように、同意がなかったことが明らかな事件もあると思います。

もっとも、例えば、被害者が一定の関係性を有する相手から性行為の要求を受けて、悩んだ挙げ句に、最終的には性交を甘受するに至ったような場合については、被害者の心理状態は多様であり、どこまでが不同意といえるかは、実は必ずしも明確ではないように思います。

また、例えば、被害者が錯誤に陥って性行為に応じており、真実を知っていれば性行為に応じなかったという場合については、判例理論に従いますと、被害者の同意は無効であり不同意と扱われることになりそうです。

しかし、例えば、結婚する、あるいは真剣に交際すると偽って、相手をだまして性交した場合について、被害者は錯誤に陥っており、有効な同意がなかったとして、犯罪の成立を肯定することは適当ではないと思われます。

すなわち、仮に、不同意性交罪を設けるとしても、その際には、不同意という文言、心理状態を明確かつ厳密に規定することが不可欠であり、また、今、幾つか申し上げましたようなグレーゾーンの事例に関して、どこまで処罰すべきかという点について、踏み込んだ議論が必要であると考えます。

繰り返し申し上げますが、私は、被害者の意思に反する性行為を罰するというアプローチ自体については、全く異存はございません
しかし、これを処罰するためには、不同意という文言を使えば解決するわけではなく、やはり、被害者の心理状態を明確に規定するか、あるいは、心理状態を徴表する行為態様や関係性等の客観的な要件を明確に規定する必要があるように考えているところです。
今後の議論におきましては、このような観点から、どのような規定ぶりが適切といえるかを検討する必要があると考えます。

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(再掲。諮問第117号
2021年9月16日 上川陽子 法務大臣
刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること

明日も、性犯罪に関する刑事法検討会における暴行・脅迫要件の論議をみてみます。
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2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている

 (A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)(後編)に掲載されました。
2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。

(哲学者のウィトゲンシュタイン)
「絶望に終わりはない。自殺もそれを終わらせることはない。人が奮起して絶望を終わらせない限りは」

(明日のブログへつづく)



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