暴行・脅迫要件は撤廃されるのか(その1)。「暴行・脅迫要件があることによって、ほとんど同じような事件であるのに運用で差が出てしまう」

先月(2021年10月)の27日、法制審議会の第1回刑事法(性犯罪関係)部会が開催されました。
同部会は、以降、刑法の性犯罪規定の改正について論議します。
最終的には、改正法案の叩き台を作成します。

(参考。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

上述のとおり、上川陽子法務大臣は2か月前(2021年9月16日)、法制審議会に対して、刑法の性犯罪規定の改正に関する10項目の諮問をおこないました。

(2021年9月16日 上川陽子法務大臣 諮問第117号より、引用。)

2021年9月16日 上川法務大臣 諮問第117号

諮問第117号

近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。

     記

第1 相手方の意思に反する性交等及びわいせつな行為に係る被害の実態に応じた適切な処罰を確保するための刑事実体法の整備

1 刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること。

(参考。刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

第178条
1 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢を引き上げること。

(参考。刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

3 相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること。
4 刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと。

(参考。刑法)
第176条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

5 配偶者間において刑法第177条の罪等が成立することを明確化すること。

(参考。刑法)
第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

6 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること。
第2 性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備

1 より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと。
2 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること。
第3 相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処置を確保し、その画像等を確実に剥奪できるようにするための実体法及び手続法の整備

1 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。
2 性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みを導入すること。

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(再掲。諮問第117号)
刑法第176条前段及び第177条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法178条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること

今回、上川陽子法務大臣がおこなった諮問のひとつに、刑法の177条に規定されている暴行・脅迫要件の改正があります。

(参考。刑法)
177条
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

上川陽子法務大臣はなぜ、暴行・脅迫要件の改正を求めているのでしょうか。

(再掲。現時点までの流れ)
<刑法の性犯罪規定の改正>

性犯罪に関する刑事法検討会
  ※2021年5月21日 取りまとめ報告書を提出
上川陽子法務大臣
  ※2021年9月16日 諮問
法制審議会
  ・2021年10月27日 第1回刑事法(性犯罪関係)部会

前段の性犯罪に関する刑事法検討会で、暴行・脅迫要件についてどのような論議がかわされたのかをみてみます。

暴行・脅迫要件の改正に関する論議

2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会

(2020年8月27日 第5回 性犯罪に関する刑事法検討会「議事録」より、引用。)

<4~5ページ>
2020年8月27日 小島妙子 委員(弁護士)

私は、暴行・脅迫要件を撤廃して、同意なき性交を処罰の対象とするという立場から、現行法の問題について申し上げたいと思います。
(略。)
また、裁判例を見ると、同意なき性交であることを認めながら、暴行・脅迫要件や抗拒不能要件を欠くとして無罪となったものがあります。

性犯罪の保護法益が性的自由・性的統合性であり、これを侵害すれば犯罪が成立するとするべきだと考えておりまして、強度の暴行・脅迫を手段とすること、抗拒不能を要件とする必要はないのではないか、この暴行・脅迫要件や抗拒不能要件が壁となって、同意なき性交が不処罰とされている現状には問題があり、法改正を要する、と考えております。
(略。)
性行為については、明確な同意を得るべきであり、これを怠った場合のリスクは、同意を曖昧なままにして利益を得てきた者が、主として男性だと思うのですけれども、これが取るべきだと思います。
(後略。)

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<6ページ>
2020年8月27日 齋藤梓 委員(臨床心理士)

(前略。)
今回配布された資料の中で、これでも有罪になるのだなと思うような事案もあれば、これで無罪になるのかと思う事案もあります。

私たちが経験した中でも、大変類似した事件であっても、この事件は有罪になったにもかかわらず、この事件は警察で届出も受け付けてもらえなかったというようなことがあります。

このように、ほとんど同じような事件であるのに運用で差が出てしまうというのは、やはり問題なのではないかと思います。

そのため、暴行・脅迫であるとか、抗拒不能であるとか、地位・関係性であるとか、そういったものがきちんと話し合われて、適切に要件が検討されるということを私は望んでおります。

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<7ページ>
2020年8月27日 宮田桂子 委員(弁護士)

(前略。)
同意なき性交罪の創設という話でございますけれども、各国の同意なき性交罪の構成要件を見てみますと、例えば、このような条件があった場合には同意がないものとみなすというふうな形で、同意なき性交に対する一種の縛りをかけています。

暴行・脅迫要件であるとか、あるいは抗拒不能要件は、例えば被害者の非常に大きな恐怖感であるとか、あるいは被害者がだまされてしまった状況であるとか、そういうようなものの一つの徴表として、一定の縛りをかけるものとして、今まで機能しているものだと思っています。

ですから、同意なき性交という構成要件を作ることによって、本当に処罰範囲が広がるのかどうなのかということも、我々は考えなければならないかと思います。
(後略。)

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<7~8ページ>
2020年8月27日 小西聖子 委員(武蔵野大学教授)

(前略。)
今、驚愕とか恐怖の話を宮田委員がされましたけれども、これまでは、暴行・脅迫の要件として、抵抗があるはず、同意していない者は抵抗するのが普通であって、判決によっては、抵抗しなければ本気ではないのだろうという推論がなされているわけです。

しかし、実態の調査、これは日本では余りありませんが、海外の文献を26文献くらい、少しレビューして調べてみると、例えば、一般の人の中から性犯罪の被害に遭った人を見付けて調べたり、あるいは、司法に関わった方を調べたり、いろいろな調査が行われており、数%から、調査対象によっては90%ぐらいの人が反応ができていない、要するに、自分の意思は、もちろん性交されたくなかったのだけれども、有効に反応ができていないという実態が調査されています。

そういう恐怖や驚愕を感じたときの人の反応をよく分かっていない限り、この問題を実態に合わせて検討するということが難しいのではないかと思います。
(後略。)

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<8~9ページ>
2020年8月27日 橋爪隆 委員(東京大学教授)

私は刑法の研究者ですので、実務の現実の運用について語り得るものではありませんが、研究者としての理解から、判例実務における暴行・脅迫要件の意義について、思うところを申し上げます。
強制性交等罪の暴行・脅迫の意義について、判例は、相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものという基準を示しておりまして、これ自体は、暴行・脅迫について、一定の重大性を要求するようにも思われます。

(参考。昭和24年5月10日 最高裁判所 判決文。)

論旨は、『被告人が被害者に暴行脅迫を加えた事実はなく、仮りにそのような事実があつたとしても、被害者が抗拒不能に陥つたという事実は全記録の何処にも発見することができない』と主張しているけれども、刑法第177条にいわゆる暴行又は脅迫相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであることを以て足りる

そうして被告人が被害者にその程度の暴行脅迫を加えたという事実は、原判決挙示の証拠によつて十分立証されている

しかし、その後の判例は、抗拒を著しく困難ならしめる程度の判断については、暴行・脅迫それ自体を単独で評価するのではなく、周囲の状況や従前からの人間関係などの具体的状況を総合的に考慮した上で、被害者の抗拒を困難にする程度といえるかを判断すべき旨を示しています。

(参考。昭和33年6月6日の最高裁判決

その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度には達しないと認められるようなものであつても、その相手方の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲(しい)の環境その他具体的事情の如何と相伴つて、相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りると解すべきである

したがって、暴行・脅迫の程度それ自体ではなく、被害者の抵抗を物理的又は心理的に困難ならしめる事情があったかということが、本罪の成否においては重要であるといえます。
このように、暴行・脅迫要件は、実際には、被害者の意思に反する性行為であることを明確に認定するための外部的な徴表として機能しているにすぎず、暴行・脅迫要件によって処罰範囲が過剰に限定されているわけではないと考えております。
そして、このような理解に従って、実務的な運用が行われているのであるならば、特段の問題は生じないようにも思われます。
もっとも、やはり、現行法は暴行・脅迫という文言を用いており、判例の定義も、相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度という表現を用いております。
したがって、これを限定的・制限的に捉える解釈の余地が全くないわけではありません。
先ほど御指摘がございましたように、もし、現場の判断においてばらつきが生じているのであるならば、それは、現行法が暴行・脅迫という文言を用いていることに起因するところが大きいと思われます。
また、国民一般の視点から見ても、暴行・脅迫要件によって、性犯罪の成立範囲が過剰に限定されているかのような印象を与えることは適当ではないと思います。
このような状況を踏まえますと、仮に、現在の実務の運用において大きな問題がないとしても、暴行・脅迫要件が誤解を与えかねない要件であり、また、ばらつきをもたらしやすい原因となり得ることを踏まえた上で、改正の可能性も含めて、処罰規定の在り方について検討することが必要であると考えます。

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(再掲。橋爪隆 委員)
(判例は)周囲の状況や従前からの人間関係などの具体的状況を総合的に考慮した上で、被害者の抗拒を困難にする程度といえるかを判断すべき旨を示しています
  
したがって、暴行・脅迫の程度それ自体ではなく、被害者の抵抗を物理的又は心理的に困難ならしめる事情があったかということが、本罪の成否においては重要である
  
暴行・脅迫要件は、実際には、被害者の意思に反する性行為であることを明確に認定するための外部的な徴表として機能しているにすぎず
  
暴行・脅迫要件によって処罰範囲が過剰に限定されているわけではない
  
もし、現場の判断においてばらつきが生じているのであるならば、それは、現行法が暴行・脅迫という文言を用いていることに起因するところが大きいと思われます
  
暴行・脅迫要件が誤解を与えかねない要件であり、また、ばらつきをもたらしやすい原因となり得ることを踏まえた上で、改正の可能性も含めて、処罰規定の在り方について検討することが必要であると考えます

明晰な論理展開です。
明日も、性犯罪に関する刑事法検討会における暴行・脅迫要件の論議をみてみます。
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2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている

 (A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)(後編)に掲載されました。
2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。

(哲学者のウィトゲンシュタイン)
「絶望に終わりはない。自殺もそれを終わらせることはない。人が奮起して絶望を終わらせない限りは」

(明日のブログへつづく)



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