昨日、「忘れられる権利」についてふれました。
近年、あたらしい人権のうちのひとつとして主張されています。
昨年の国会でも議論されました。
(2017年5月25日 衆議院 憲法調査会「会議録」より、引用。)
●斉藤鉄夫 衆議院議員(公明党)
三つ目に、情報化が進展したネット社会における表現の自由や知る権利とプライバシー権、忘れられる権利の問題の存在です。
インターネット検索サイトで表示される逮捕歴を削除することの是非が争われた裁判で、1月31日、最高裁は削除を認めない決定をしました。
削除ができるのは、事実を公表されないことによるプライバシー保護の利益が、検索事業者の表現の自由を明らかに優越する場合に限るとしたものです。
今回の判決では、忘れられる権利そのものへの言及はありませんでしたが、いわば忘れられる権利よりも知る権利に重きを置いた判断と言えるでしょう。
忘れられる権利を平穏に生きる権利と表現する人もいます。
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「逮捕歴を削除することの是非が争われた裁判」
ネットに掲載されている逮捕歴を削除せよとのうったえですから、こちらは極端な事例です。
最高裁の判決を参照します。
(2017年1月31日の最高裁判決より、引用。)
<一部分を引用>
●最高裁
抗告人は、児童買春をしたとの被疑事実に基づき、平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され、同年12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。
抗告人が上記容疑で逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され、その内容の全部又は一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。
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●最高裁
本件は、抗告人が、相手方に対し、人格権ないし人格的利益に基づき、本件検索結果の削除を求める仮処分命令の申立てをした事案である。
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最高裁はつぎのように言い渡しました。
<一部分を引用>
●最高裁
(前略)、児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。
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●最高裁
(前略)、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
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理にかなった判断です。
この判決のなかで最高裁は、重要なことをのべています。
<一部分を引用>
●最高裁
(前略)、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、
当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもの |
で、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
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昨日のブログでも記しました。
業界は、出演強要とは無関係の女優に対しても、忘れられる権利をみとめました。
この点に関しては先駆的なとりくみと言えるでしょう。
(2016年9月2日 withnews「AV強要、戸惑う業界団体『信じられない』『現場で一番強いのは女優』」より、引用。改行を施しています。)
<一部分を引用>
●IPPA(メーカー団体)
今までは、メーカーが著作権を持って、二次、三次と使ってきましたが、我々の中でも今回、アダルトは特殊なコンテンツだという認識ができました。
二次使用する場合は、女優への意思確認をして、新たにお金を払うこともあり得ます。
本来の著作権はメーカーがずっと持つものだけど、権利の契約期間を5年とかで持っておいて、それ以上使いたい場合は女優にお金を支払う。
または、5年たったので、女優からの申し出で消せるなどのシステムを整備しようということで契約書のモデルケースを考えています。
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(川奈まり子AVAN代表のツイートより、引用。)
●川奈まり子 AVAN代表
<2017年6月28日>
マジで転売と3次使用はAV業界やめないとダメ。 肖像権どころか生活権侵害で訴訟団出来るわそのうち。 賤業差別が激しいこの世の中で、引退して何年経ってもまだビデオ売られたら首くくるしかなくなる元女優も多いはず。 自己責任論で片づけられないのよ。 買う人に罪はないけど、被害者は確実にいます。 |
ええ。 業界の人たちに向かって最近よく 「私も被害者ですよ」 って言ってるんですよ。 少しずつでも変わっていくといいんですけど。 |
何ら被害に遭わずAVに出演しても、引退後5年10年と経過するうちに本人の状況が変わり、過去の経歴を隠したくなる場合がとても多いのです。 結婚や再就職、子供の成長など、さまざまな事情がありますよね。 私自身、常に葛藤しています。 AVANとしての意見は上奏していきたいと思った(て)いますよ。 |
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川奈まり子AVAN代表の影響力は頗(すこぶ)るおおきいものがあるようです。
業界は、忘れられる権利をみとめました。
辻丸さんによりますと、5年後に削除をするという新ルールは、業界にとっても益があるようです。
(2018年1月4日 AV落人辻丸の言霊~殉教録~「AV出演強要まとめ7・・あまりに底が浅すぎる」より、引用。)
(業界関係者) これからのAVは安全だとあまりに広まれば、セクシー女優になりたいと言いだす女性が増えるかもしれない。 「女性をAVに出させようとするのか?」という批判も出かねない。 |
安全より、そっちか? |
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斉藤鉄夫衆議院議員のことばをつづけます。
(2017年5月25日 衆議院 憲法調査会「会議録」より、引用。)
●斉藤鉄夫 衆議院議員(公明党)
欧州では、削除権、忘れられる権利がEUの個人情報保護強化規則に明記されているそうです。
<※参考>
(2017年6月1日 衆議院 憲法調査会「会議録」より、引用。) ●宍戸常寿 東京大学 大学院法学政治学研究科教授 |
●斉藤鉄夫 衆議院議員(公明党)
一方で、最高裁は3月15日、令状なしのGPS捜査を違法とするプライバシー重視の判断をしました。
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こちらも最高裁の判決をみてみます。
(2017年3月15日の最高裁判決より、引用。)
<一部分を引用>
●最高裁
(前略)、本件においては、被告人が複数の共犯者と共に犯したと疑われていた窃盗事件に関し、組織性の有無、程度や組織内における被告人の役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として、平成25年5月23日頃から同年12月4日頃までの約6か月半の間、被告人、共犯者のほか、被告人の知人女性も使用する蓋然性があった自動車等合計19台に、同人らの承諾なく、かつ、令状を取得することなく、GPS端末を取り付けた上、その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査が実施された(以下、この捜査を「本件GPS捜査」という。)。
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プライバシーに関する判断は以下のとおりです。
●最高裁
GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、
個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。 このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得る |
ものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。
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業界が今月から順次おこなう新ルールのなかのひとつに、可視化があります。
(2017年10月6日 ねとらぼ「AV作品の使用期間などにルール 出演強要問題受けて有識者委員会が策定」より、引用。)
●面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化 |
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これも度が過ぎますと、プライバシーの侵害に進展する可能性があります。
(2017年11月25日 Yahoo!ニュース「「AV出演強要問題は今どうなっているか。 今も苦しみの中にいる被害者たちより、引用。改行を施しています。)
●伊藤和子 HRN事務局長
さらに、撮影段階でのトラブルを防止するために監視カメラのようなものが常時設定されている、というクレームもあります。 そのこと自体が怖いし、のちに悪用されてネットに公開されるのではないか、と強く怖れる女性も少なくありません。 |
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(香西咲さんのツイートより、引用。)
●香西咲さん
<2017年9月3日>
私が笑顔でいる所をわざと動画で撮って証拠にしようなんて せこい 自分を守る事しか考えてないんだね |
@kouzaisaki 咲さんのおっしゃられる通り自分達に都合の良い内容ときは証拠として提示し都合の悪い内容のときは、提示しない事が容易に想定できますね。
それに録音録画を承諾なしに隠し撮りのようにしているようであれば、それはそれで問題ですよね。— ken@1/? (@ken_s1) 2017年9月5日
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AV業界改革推進有識者委員会(現AV人権倫理機構)が策定した新ルールには、評価できるものもあります。
(2017年10月6日 ねとらぼ「AV作品の使用期間などにルール 出演強要問題受けて有識者委員会が策定」より、引用。)
<2018年1月から順次実施となる主な新ルール、システム>
●メーカー・プロダクション間、プロダクション・女優間、女優・メーカー間の共通契約書の使用
●プロダクション登録時(契約時)において、女優本人が再検討する期間の明確化
●プロダクション登録時の第三者による意思確認と、その際の重要事項説明の制度化
●面接、契約、撮影時などにおける現場録画での可視化
●出演料やプロダクションフィーなど金銭面の女優への開示
●オムニバス作品(総集編)制作時における出演女優への報酬支払(2次利用料の発生)
●作品使用期間の取決め(最長5年、以降女優から要請があれば使用停止にする)
●通報窓口「ホットライン」の開設
●AV業界の紛争解決を行う「仲裁機関」の設置
●コンプライアンスプログラムの整備
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問題は傘下のメーカーとプロダクションです。
決められたことをまもるという意識がなければ、せっかくのこころみも画餅(がべい)に帰してしまいます。
(香西咲さんのツイートより、引用。)
●香西咲さん
<2018年1月9日>
#青木亮 に #AV強要 を受けていた時代の事実はアタッカーズ丸山チーフも私の事を指差して笑っていました。 そしてメーカーからは『当時の契約書も無ければプロデューサーも退職しているのでいつ、何のタイトルの為に撮り下ろした作品か分からなければ削除に応じられない』と。 |
●香西咲さん
<2018年1月9日>
奴隷契約の時代にはそんなもの知らされて現場に行っていません。 手帖を読み返し撮影日程だけは分かったので、メーカーに連絡し今後の対応に期待します。 社会復帰に対しては前向きですが立ちはだかる壁が多すぎます。 |
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香西咲さんが呻吟したり懊悩するにはおよびません。
(2017年5月19日 第3回関係府省対策会議「今後の対策」より、引用。)
<9ページ>
●内閣府、関係府省
(1) 被害の防止及び救済等のための新たな対応策の検討
アダルトビデオ出演強要問題や「JKビジネス」問題等が深刻な性的な暴力で、重大な人権侵害であるとの考え方に立ち、関係者による自主的な取組の進捗状況や実態把握の状況も踏まえ、性的な暴力の被害につながる行為の規制、被害の回復、被害者の保護及び支援等について、有識者等の意見も参考に、法的対応を含め、必要な対応策を検討する。 |
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背後に政府が控えています。
メーカーが怠業を決め込んでも、長くはつづきません。
あとは法律によって被害の回復をおこなうだけです。
香西咲さんの前方にはまばゆい光が差し込んでいます。
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■2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
■2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
■2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
■2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている。」
(※A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
■2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)・(後編)に掲載されました。
■2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
■2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
■2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。
■香西咲さんのツイッター
(香西咲さんの重要ツイート ~2016年7月18日)
私だって綺麗にリセット出来るならAVデビュー前の私に戻りたい。
だけど変えられない現状踏まえて立て直したのが今の形。(後略。)
(明日のブログへつづく)
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