昨日は、人身取引に対する政府のとりくみについてふれました。
人身取引と似たようなことばに、人身売買があります。
人身売買は、刑法第226条の2によって、禁止されています。
国際的には、この規定だけではふじゅうぶん、とされています。
(アメリカ国務省人身取引監視対策部 「2014年人身売買報告書(日本に関する部分)」より、引用。改行を施しています。)
<一部分を引用>
日本の刑法は、国際法上義務付けられているあらゆる形態の人身取引を禁止していない。
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アメリカの国務省は、人身売買報告書のなかで、
「日本の刑法は、国際法上義務付けられているあらゆる形態の人身取引を禁止していない」
とのべています。
ちなみに、人身取引は、人身売買よりもひろい概念です。
(再掲)
「国際法上義務付けられているあらゆる形態の人身取引」
人身取引議定書をみてみます。
この条約は、187の国が締結しています。
ちなみに、日本は、まだ批准していません。
(「人身取引議定書」より、引用。改行を施しています。)
第3条
(a) 「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。
搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属又は臓器の摘出を含める。
(b) (a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定する搾取について同意しているか否かを問わない。
(後略。)
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(再掲)
搾取の目的で、(略)
誘拐、
詐欺、
欺もう(あざむき)、
権力の濫用
若(も)しくはぜい弱な立場に乗ずること
又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若(も)しくは利益の授受
の手段を用いて、
人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをいう。
青木が香西咲さんに対しておこなったことは、まさしく人身取引です。
搾取の目的で、
詐欺、
欺もう(あざむき)、
権力の濫用、
ぜい弱な立場に乗ずること、
の手段を用いて、
香西咲さんを獲得し、
メーカーに輸送し、
引き渡したのですから。
(2016年9月18日 AbemaTIMES「【AV出演強要問題】元カリスマ女優・川奈まり子氏が業界健全化のために奮闘」より、引用。改行を施しています。)
香西は、当初はモデルとしてスカウトされたはずだったのに蓋を開けたらAV出演ということになっていた。
(略)、AV撮影のために富士山の麓に連れていかれて、3時間泣いたこともあるという。
その時、自分をスタッフ全員が待っている状況にあった。
<香西咲さん>
遠いところですから……。
よっぽど強い子でないと(撮影を中止させるのは)無理だと思いますし。
私さえ泣いておけば丸く収まると思った。
結局AV撮影に応じることになりました。
あとは、違約金などを理由に辞められないです。
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(再掲。人身取引議定書)
「被害者が(略)搾取について同意しているか否かを問わない」
この一節が重要です。
本人の同意があっても、詐欺や欺罔(あざむき)があった場合は、人身取引に該当します。
(2016年7月17日 AbemaTIMES「【AV出演強要・脅迫・洗脳】人気AV女優が元所属事務所を告訴」より、引用。改行を施しています。)
<香西咲さん>
デビューした時に契約書も結んでいないし、日付を遡ってAVの事務所の契約書を書かされたので不本意だと思いました。
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青木がやったことは、だれがみても、人身取引です。
犯罪です。
政府は、昨年の5月に、「人身取引対策に関する取組について」という文章を発表しました。
このなかで、人身取引議定書の第3条について解説しています。
(2016年年5月 「人身取引対策に関する取組について」より、引用。改行を施しています。)
<2~3ページ>
被害者の多くは女性や児童であるが、この定義にあるとおり、売春などの性的な搾取だけではなく、労働搾取や、臓器の摘出などを目的としたものも人身取引に該当し、性別や国籍を問わず、被害者となり得る。
また、人身取引という行為には、人の「売買」に限らず、搾取の目的で、被害者を騙したり、弱い立場にあることにつけ込んだりして被害者を支配下に置くなどの行為も含まれ、暴力、脅迫、詐欺等の手段が用いられた場合には、たとえ被害者が搾取に同意していたとしても、これに該当する可能性がある。
(中略。)
我が国は、(略)平成17年(2005年)の刑法改正で、当時、国内法の罰則で処罰の対象となっていなかった行為について罰則(人身売買罪等)を創設・整備したことにより、人身取引議定書の定義する人身取引に該当する行為は全て犯罪となっている。
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政府は、
「人身取引議定書の定義する人身取引に該当する行為は全て犯罪となっている」
と、自負します。
アメリカのうけとめかたは、日本とちがうようです。
過去3年間の人身売買報告書を参照します。
●2014年 人身売買報告書(アメリカ国務省)
<一部分を引用>
日本(第2階層)
「援助交際」という現象は、日本人児童の買春を引き続き助長している。
近年流行の「女子高生(JK)お散歩」では、少女は金銭を提供されて男性と一緒に散 歩やカフェに行くか、またはホテルへ行って商業的性取引を行う。
巧妙かつ組織的な売春ネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上な どの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にし、中には人身取引被害者となる女性および少女もいる。
日本への勧告
2000年に採択された国連人身取引議定書と整合性を持つ、あらゆる形態の人身取引を禁止する包括的な人身取引対策法案の起草と法の制定を行う。
強制労働の事案を捜査および訴追し、有罪判決を受けた人身取引犯に実刑を科す取り組みを大幅に強化する。
訴追
日本政府は人身取引対策の法律を執行する取り組みを続けた。
日本の刑法は、国際法上義務付けられているあらゆる形態の人身取引を禁止していない。
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●2015年 人身売買報告書(アメリカ国務省)
<一部分を引用>
日本(第2階層)
日本人、特に、家出した十代の少女や外国人と日本人の間に生まれて日本国籍を取得した児童もまた、性的搾取の人身取引の被害にさらされる。
「援助交際」という現象や、さまざまな形態の「JK(女子高生)ビジネス」が、日本人児童の買春を依然として助長している。
巧妙かつ組織的な売春ネットワーク が、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にする。
こうした女性や少女は貧困状態にある、あるいは精神障害や知的障害を持つ場合が多い。
中には人身取引被害者となる女性や少女もいる。
日本への勧告
2000年に採択された国連人身取引議定書と整合性を持つ、あらゆる形態の人身取引を禁止する包括的な人身取引対策法案の起草と法の制定を行う。
強制労働の事案を捜査および訴追し、有罪判決を受けた人身取引犯に実刑を科す取り組みを大幅に強化する。
訴追
政府は人身取引対策としての訴追の取り組みを低下させた。
日本の刑法は、国際法で定義されているあらゆる形態の人身取引を禁止するものではなく、 政府は人身取引犯罪の訴追にあたり、売春、略取・誘拐、児童福祉および雇用に関する法律のさまざまな規定に依拠している。
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●2016年 人身売買報告書(アメリカ国務省)
<一部分を引用>
日本(第2階層)
日本人、特に、家出した十代の少女や、外国人と日本人の間に生まれて日本国籍を取得した児童およびその外国人の母親もまた、性的搾取の人身取引の被害にさらされる。
「援助交際」という現象や、さまざまな形態の「JK(女子高生)ビジネス」が、日本人児童の性的搾取を目的とする人身取引を依然として助長している。
巧妙かつ組織的な売春ネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、脆弱な日本人女性および少女を標的にする。
こうした女性や少女は貧困状態にある、あるいは精神障害を持つ場合が多い。
中には人身取引被害者となる女性や少女もいる。
日本への勧告
国際法の定義に従い、強制労働あるいは性的搾取の人身取引を目的に個人を募集、輸送、引き渡し、収受する者を犯罪者とすることを含め、あらゆる形態の人身取引を全て犯罪とするための法的枠組みを改定する。
実刑の代替となる罰金刑を排除し、人身取引犯罪に対する罰則を強化する。
訴追
政府は、人身取引に対する法執行の取り組みを若干強化した。
日本の刑法は、国際法で定義されているあらゆる形態の人身取引を禁止するものではなく、政府は人身取引犯罪の訴追にあたり、売春、略取・誘拐、児童福祉および雇用に関する法律のさまざまな規定に依拠している。
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日本には、まだ、処罰されずに野放しとなっている人身取引が存在するようです。
AV出演強要は、その最たるものといえるでしょう。
今年(2017年)の人身売買報告書には、AV出演強要被害が明記されるのではないでしょうか。
この件とは別に、3月3日に公表された「人権報告書」では、出演強要問題がとりあげられたようです。
(2015年7月27日 ビッグイシューオンライン「誰もが他人ごとじゃない身近にある人身取引。性産業にある搾取の実態」より引用。改行を施しています。)
<一部分を引用。小林(ビッグイシューオンライン編集部)>
日本は人身取引に関する明確な法律が先進国で唯一ないことなど、人身取引対策への遅れをアメリカや国連に指摘されていますが、なぜ日本の人身取引に対する取り組みは遅れているのでしょうか?
<一部分を引用。瀬川愛葵さん(ライトハウス)>
要因は様々ありますが、遅れている要因の一つとして、性産業には被害者がいないという社会の認識があるからだと思います。
性産業やポルノ産業で働いている人は、自分の意思で働いていて被害者ではない、と多くの人が認識しています。
ただ、現実はそうではなく、脅されたり暴力を振るわれたりして強制的に性産業で働かされていたり、最初はお金が必要だったりして、自分の意思で働き始めたとしても、辞めたいと思ったときに辞める自由がなく怯えながら働かされている人が多くいます。
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(再掲)
「性産業には被害者がいないという社会の認識がある」
いまはちがいます。
人々の知見は、一転しました。
香西咲さんがかえました。
(2016年9月30日 withnews「AV強要 現役女優・香西咲『文春砲』で脅迫も 『海に沈められる…』」より、引用。改行を施しています。)
<一部分を引用。香西咲さん>
逆風もあったが、前所属事務所社長を告発したことに後悔はない。
「AV出演強要が社会問題化している今が、告発と刑事、民事で訴訟を起こすことを決断する唯一のチャンス」だと考えるからだ。
「『洗脳』を受けた過去とも向き合わないといけない。決着をつけたい」とも話す。
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香西咲さんがいなければ、出演強要被害はないもの、とされていたかもしれません。
(2015年7月27日 ビッグイシューオンライン「誰もが他人ごとじゃない身近にある人身取引。性産業にある搾取の実態」より引用。改行を施しています。)
<一部分を引用。瀬川愛葵さん(ライトハウス)>
(略)、日本は先進国の中で唯一、人身取引禁止法がない国なので、法律に限界がありサポートしきれていない人もいます。
そのため、政治家や他の人権団体を巻き込んでしっかりとアドボカシー(政策提言)を行っていきたいです。
そして、オリンピックが開催される2020年までに、法改正または法制定を行うことを一つの目標に、世論を喚起していきたいと思います。
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3年後、日本で、オリンピックが開催されます。
政府は、オリンピックまでに、人身取引を根絶する、と確言しています。
(2014年12月16日 犯罪対策閣僚会議人身取引対策行動計画2014より、引用。改行を施しています。)
<2ページ>
そこで、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた「世界一安全な国、日本」を創り上げることの一環として、人身取引対策に係る情勢に適切に対処し、政府一体となってより強力に、総合的かつ包括的な人身取引対策に取り組んでいくため、「人身取引対策行動計画2014」を策定し、人身取引の根絶を目指すこととする。
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人身取引のなかで、いま、人々が憂いているのは、AV出演強要です。
オリンピックまでに、この問題を解決しなければなりません。
国家はどのような措置を講じるのでしょう。
法律で規制をするのか、それとも業界の殲滅(せんめつ)か。
現在のところ、AVANとIPPAは、出演強要の事実をみとめていません。
法規制についても、反対の立場のようです。
国家は、機宜(きぎ。あることをするのにちょうどよい機会という意味)とうけとるかもしれません。
法規制をするためには労力が必要です。
監督省庁も設置しなければなりません。
よけいな手間をかけるくらいならば、つぶせ、となるような気もします。
(SGM村上チーフさんのツイートより、引用。改行を施しています。)
<2017年3月2日>
HRNはAVの出演強要、性犯罪撲滅であって、AV業界そのものを撲滅するという主張はしていない。
そこが重用なポイント。
本当に業界そのものが撲滅されるかどうかは業界の今後の取り組みしだいではないか?
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なぜAVANとIPPAは、法律をつくってください、と陳情しないのでしょう。
ふしぎなひとたちです。
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■2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
■2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
■2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
■2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている。」
(※A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
■2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)・(後編)に掲載されました。
■2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
■2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
■2016年12月28日 香西咲さんのインタビュー記事が、週刊文春に掲載されました。
■香西咲さんのツイッター
(香西咲さんの重要ツイート ~2016年7月18日)
私だって綺麗にリセット出来るならAVデビュー前の私に戻りたい。
だけど変えられない現状踏まえて立て直したのが今の形。(後略。)
(明日のブログへつづく)
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