昨日のブログの後半で、性暴力被害についてふれました。
書いているうちに、ある女性がおこなった訴訟を思い出しました。
性的虐待に関するものです。
新聞等で、何度も報道されました。
本日はこの件について書かせていただきます。
被害者の女性は現在、41歳です。
出身地は、北海道の釧路市でした。
(2015年6月5日 産経新聞「幼少期の性的虐待に立ちはだかる“時効の壁” 強制わいせつ罪は7年 法改正で泣き寝入りを防げるか?」より、引用。改行を施しています。)
女性は3~8歳まで叔父にあたる男性から性的虐待を受けた。
当初は添い寝をするだけだったが、行為は徐々にエスカレート。
体を触られ、性行為を強要されるようになった。
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女性は6、7歳ごろから視界にもやがかかったようになり、現実感が薄れる「離人症」の症状が出始める。
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女性はPTSDも発症します。
(引用。産経新聞)
女性は中学生になって初めて、自らが受けた行為が性的虐待だったと知り「頭を殴られたようなショックを受けた」という。
それでも「広まったら大変なことになる。誰にも言えなかった」。
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女性が36歳のときです。
2011年3月11日、東日本大震災がおきます。
(引用。産経新聞)
平成23年(2011年)、30代後半になった女性は東日本大震災を機に「自分の命とも向き合わなければ」と考え、性的虐待被害を医師に相談。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)との診断を受け、叔父を相手取り、損害賠償請求訴訟を決意した。
提訴の数日前、両親に被害を告白した。
返ってきたのは
「公にするのは身内の恥。目撃者もいない。お前が黙っていればなかったことになる」
との言葉だった。
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両親は、娘に対して、泣き寝入りすることを勧めました。
(引用。産経新聞)
それでも提訴に踏み切った女性だが、立ちはだかったのは「時効の壁」だ。
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民法はつぎのように規定しています。
<724条>
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
後段に書かれている20年のことを「除斥(じょせき)期間」といいます。
行使をしないと法律上の権利が消滅する期間のことです。
時系列で記してみます。
■1978年(3歳)・・・・・・叔父の性的虐待がはじまる。
(※3歳~8歳まで、叔父から性的虐待を受ける。離人症とPTSDを発症。)
■1983年(8歳)・・・・・・叔父の性的虐待がおわる。
<20年後>
■2003年(28歳)・・・・・・民法上の請求権が消滅。
■2006年(31歳)・・・・・・うつ病を患う。
■2011年(36歳)・・・・・・PTSDと診断される。訴訟。
女性は、釧路地方裁判所に提訴しました。
叔父からの虐待がなくなったのが、8歳のときです。
それから28年間が経過した36歳のときに、訴訟へふみきったのです。
除斥期間(20年)は、とっくに過ぎています。
求める内容は、治療費や慰謝料など、約4,175万円の賠償でした。
(2015年9月7日 西日本新聞「性暴力の実相(2)身内 「安心な家庭」描けず」より、引用。改行を施しています。)
加害行為は1978~1983年で、ここを起算点とすれば請求権は消滅している。
一方、女性はPTSDと診断された2011年が起算点だと主張した。
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判決がでます。
(引用。西日本新聞)
一審釧路地裁は性的虐待とPTSDの因果関係は認めたが、起算点は最後に加害行為があった1983年ごろとし、「請求権は消滅している」と訴えを退けた。
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請求権は8年前に消滅しています。
釧路地方裁判所は、法律を通常通りに解釈したのです。
女性は嘆きました。
「心の傷は時間が解決してくれることもある。でも、私の場合、性的虐待は年齢を重ねるごとに被害意識がふくらんだ。被害を受けたそのときが時効のスタートというのはあまりにも酷だ」(産経新聞)
女性は控訴します。
3年後の2014年に、第2審判決がでます。
(2015年9月7日 西日本新聞「性暴力の実相(2)身内 「安心な家庭」描けず」より、引用。改行を施しています。)
2審の札幌高裁は、女性側がPTSDに加えて主張したうつ病について、2006年に発症した「新たな被害」と認定。
起算点も2006年とし、慰謝料や治療費など計3,030万円の支払いを命じた。
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(2014年9月25日 日本経済新聞「加害者に賠償命令 札幌高裁、幼少期の性的虐待で」より、引用。)
判決理由で岡本岳裁判長は、女性のPTSDとうつ病は症状や治療方法が異なることを踏まえ、男性の不法行為による別個の損害と認定。
うつ病になった損害として慰謝料2千万円、治療費約910万円などを認容した。
(中略。)
(略)、岡本裁判長は「うつ病の発症は2006年9月ごろで、この時期を起算点ととらえれば除斥期間は経過していない」と判断した。
PTSDになった損害は除斥期間を経過し、損害賠償請求権が消滅したとして認めなかった。
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(2015年7月10日 日本経済新聞「幼少期に性的虐待でうつ発症、加害男性の賠償確定 最高裁」より、引用。)
2審はPTSDとうつ病は別個の損害と認定。
PTSDを発症した損害は請求権が消滅していると指摘したが、うつ病は「発症した2006年9月ごろが起算点で、除斥期間は経過していない」とし、慰謝料や治療費など計約3,030万円の支払いを男性に命じた。
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(2014年12月30日 読売新聞「心の傷『時効を止めて』 性的虐待 子供は訴えられない」より、引用。改行を施しています。)
(前略。)
2審・札幌高裁は
「うつ病の発症は虐待による新たな被害で、訴える権利はある」と判断。
男性に約3,000万円の支払いを命じ、男性側が最高裁に上告している。
女性を診察した東京女子医大女性生涯健康センターの加茂登志子所長は
「子供の頃の性被害を成人してから訴える人は多い」
と話す。
女性勝訴のニュースに、弁護団には「自分も認めてもらえるのか」という問い合わせが相次いだという。
ただ、高裁判決は、女性が30歳を過ぎて発症したうつ病を理由に訴えを認めており、幼い頃からPTSDに苦しみ続ける人たちが救済されるわけではない。
(後略。)
(※この記事は、ネットで公開されていません。)
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新聞記事を読むと、若干混乱します。
一瞬、補償の対象となるのはうつ病で、PTSDは該当しない、との錯覚におちいります。
ちがいます。
本日のブログのテーマは、時効です。
(再掲)
<民法第724条>
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
民法の724条と、判決の関係をみてみます。
花みずき法律事務所の弁護士が書かれたブログがわかりやすいので、こちらを参照させていただきます。
(引用。花みずき法律事務所のブログ)
現在の民法では
① 被害者が損害および加害者を知った時から3年間
② 不法行為の時から20年間
のいずれかの要件を満たすと損害賠償請求ができなくなります。
とすると、うつ病の症状が続いている以上、①の要件は充たしませんが、性的虐待が終わったのが女性が9才の昭和58年ですから、②の要件を充たしてしまいます。
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平易な解説です。
被害者の女性は、2006年、31歳のときに、うつ病であることがわかります。
民法の724条の前段には、
「①不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」
と書かれています。
よって、
「うつ病の症状が続いている以上、①の要件は充たしません」
となります。
同条の後段は、こうのべています。
「②不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」
つまり、
「性的虐待が終わったのが女性が9才の昭和58年ですから、②の要件を充たしてしまいます」
つまり、この女性については、①ではなく、②で判断することになります。
②には、20年という条件があります。
当該女性は、28年後に訴訟をおこしています。
これを法律を通常通り解釈すると不法行為による損害賠償請求は認められないことになります。
(引用。花みずき法律事務所のブログ)
最高裁は、子供の頃の離人症・PTSDについては②の要件を充たしてしまうため請求できないとしながら、うつ病については認めたうえで、判決で3,040万円の賠償を認めました。
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女性は31歳のときに、うつ病を患いました。
子どものころではありません。
(引用。花みずき法律事務所のブログ)
「ここで、被害者の請求額の殆どを認めていることから、法律の表面的な解釈上は子供の頃の離人症・PTSDを排斥しながら、実質的な金銭面では認めようとしたものと言えるでしょう。
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女性は最高裁でも勝訴しました。
裁判をめぐる女性の心情については、以下の記事がくわしくつたえています。
・2014年9月25日 Yahoo!ニュース「3歳から8歳まで叔父から受けた性的虐待。札幌高裁は「魂の殺人」の主張を容れ被害者の請求、大半を認める」
それにしても、不法行為に対する民事上の時効は長きにわたっています。
香西咲さんのツイッター(2016年11月15日)より、引用。
またAV前事務所に強要されたAV撮影や性接待ですが、
私は現在PTSDを伴っている為に弁護士の見解によると『今の私では裁判に立ち向かう体力と精神力が無い、まずは身体を優先すべき』と判断しています。
専門家にお聞きした所、PTSDは快復迄に最低でも1年それ以上かかると仰ってました。
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(再掲)
「まずは身体を優先すべき」
おっしゃるとおりです。
体調を万全にしてから、巨悪と対峙されることをのぞみます。
まずは、おからだを大切にしてください。
あわてることはありません。
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■2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
■2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
■2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
■2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている。」
(※A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
■2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)・(後編)に掲載されました。
■2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
■2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
■香西咲さんのツイッター
(香西咲さんの重要ツイート ~2016年7月18日)
私だって綺麗にリセット出来るならAVデビュー前の私に戻りたい。
だけど変えられない現状踏まえて立て直したのが今の形。(後略。)
(明日のブログへつづく)
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