香西咲さんはいま、呻吟しながら、光のさす方向へむかってあゆんでおられます。
吐露できない苦しみも存在することでしょう。
鬱積した情もあると思います。
なぜ香西咲さんは、自分から、割にあわないことをおこなったのでしょうか。
(2016年7月29日 毎日新聞「AV出演強要 香西咲さん『私はこうして洗脳された』」より、引用。改行を施しています。)
<香西咲さん>
既に「SEXY-J」という(AV女優が歌う)ユニットのメンバーからは外されました。
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いくらでも平穏に生きていくことが可能であったはずです。
大方のひとたちのように波風をたてることなく、粛々と。
香西咲さんはちがいました。
その種の隠遁(いんとん)とした生き方を求めませんでした。
おりにふれて、ぼくの脳裏に去来するのは、「論語」のなかのある一場面です。
あるとき孔子(B.C.552年~B.C.479年)は、偶然出くわした農夫と、以下のようなやりとりをしています。
書下し文のあとに、訳を添えてご紹介します。
(※和田武司拓殖大学名誉教授の訳を参考にしました。 )
<農夫>
滔滔(とうとう)たる者、天下皆(みな)是なり。
而(しか)して誰と以(とも)にかこれを易(か)えん。
(訳)
「いま、世の中は、滔々と(勢いよく)水が流れている」
「いったいだれにこの水を押しとどめることができるというのだ」
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<農夫>
豈(あ)に世を辟くるの士に従うに若(し)かんや。
(訳)
「おれたちのように世の中そのものから逃避したほうがよいのでは」
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<孔子>
鳥獣は与(とも)に群を同じくすべからず。
吾(われ)この人の徒と与(とも)にするに非(あら)ずして誰と与(とも)にせん。
(訳)
「人間は、けものの生活にはもどれない」
「人間社会を離れて、いったいだれと暮らせというのだ」
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<孔子>
天下道あらば、丘は与に易(か)えざるなり。
(訳)
「もしも世の中が乱れていないのならば、私が、この流れを変える必要はないだろう」
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香西咲さんは、業界のひとたちから何度となく、こういわれたのかもしれません。
「いま、世の中は、滔々と(勢いよく)水が流れている」
「いったいだれにこの水を押しとどめることができるというのだ」
と。
(2016年9月30日 withnews「AV強要 現役女優・香西咲『文春砲』で脅迫も 『海に沈められる…』」より、引用。改行を施しています。)
以前から仲の良かった一人に食事に誘われた。
普通の会話が続いたが、文春記事の話になると相手の口調が変わり、脅迫とも受け取れる言葉が出てきた。
「この業界、誰がどう関わっているか分からないし、利権の問題もあるかもしれない。あまり騒ぎ立てると危ないよ。人一人消えてもおかしくない。東京湾に沈められることもあり得る」。
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魑魅魍魎(妖怪)が棲息しているダークな業界です。
世の中の常識は通用しません。
「あまり騒ぎ立てると危ないよ。人一人消えてもおかしくない」
香西咲さんに対して、何をしてくるのかわかりません。
(withnewsの記事より、引用。改行を施しています。)
さらに別の日に突然、電話をよこし、
「そろそろ自分の立ち位置をはっきりさせた方がいいんじゃない?」
とも言ってきた。
香西さんは
「業界のおきてに従って従順になるか、辞めるかの選択をしろ」
ということだと受け止めた。
(再掲)
「業界のおきてに従って従順になるか、辞めるかの選択をしろ」
この業界人は香西咲さんと仲のよいかたのようです。
香西咲さんが業界内で安穏と暮らしていくことを願ったのかもしれません。
先の「論語」のように、
「おれたちのように世の中そのものから逃避したほうがよいのでは」
と。
香西咲さんは、雷同(みだりに他の説に同意)しませんでした。
(2016年7月29日 毎日新聞「AV出演強要 香西咲さん『私はこうして洗脳された』」より、引用。改行を施しています。)
(問)「なぜそこまで覚悟を決められた?」
<香西咲さん>
AVが夢にはつながらないことに気付き、ダラダラやっているのはよくないと思ったんです。
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「私は、けものの生活にはもどれない」(「論語」)
香西咲さんは、けものの生活と決別したのかもしれません。
(毎日新聞の記事より、引用。改行を施しています。)
「続けてもあと1年ぐらいかな」
「その間にAVで失った人間関係や健康状態を取り戻そう」
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香西咲さんは、
「AVで失った人間関係や健康状態を取り戻そう」
と決心しました。
そのときの心境は、
「人間社会を離れて、いったいだれと暮らせというのですか」(「論語」)
というものであったのでしょう。
(毎日新聞の記事より、引用。)
(略)、出演強要が社会問題化しました。
(略。)
この(被害の)連鎖はもう止まらない。
(A氏が)どんどん新しい子を入れているのも分かっていたので、世の中のためにもなると思いました。
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「もしも世の中が乱れていないのならば、私が、この流れを変える必要はないだろう」(「論語」)
香西咲さんはすべてを失う覚悟で、出演強要被害の告発をおこなったのです。
もちろん、業界のことも考えてのうえでの決断です。
香西咲さんのツイッター(2016年7月5日)より、引用。
私は今自分が関わるAV業界現役の方々が大好きです。
丸5年業界にいても、業界の事なんて僅かしか知らないでしょう。
でも蚊帳の外からこの業界の事を言う方々との重みは違うと思って頂けたら幸いです。
現状を認め、少しでも業界が更に良い方向に向かう様に微力ながら努めます。
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香西咲さんのツイッター(2016年7月7日)より、引用。
仰る通りです。
業界に対して恨みしかなかったら私もとっとと去って終わる所でした。
私は業界に対する愛があります、
本気で改善に取り組みたい、
だから実名報道を選びました。
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もう一度、「論語」を顧(かえり)みてみます。
<農夫>
「いま、世の中は、滔々と(勢いよく)水が流れている」
「いったいだれにこの水を押しとどめることができるというのだ」
「おれたちのように世の中そのものから逃避したほうがよいのでは」
<孔子>
「人間は、けものの生活にはもどれない」
「人間社会を離れて、いったいだれと暮らせというのだ」
「もしも世の中が乱れていないのならば、私が、この流れを変える必要はないだろう」
人間というのはいくらでも、格好のよいせりふを口にすることができます。
耳障りのよいことばを発することができます。
口ではなんとでもいえます。
問題は、いざというときです。
そのときに何ができるかです。
このたび、出演強要問題が露見しました。
業界内のひとたちにとっては一大事です。
一般の人々の喧騒が聞こえてきます。
警察も腰をあげました。
このままでは職を失するかもしれません。
誰もが事実を糊塗し(ごまかし)、隠蔽することに必死となりました。
「あまり騒ぎ立てると危ないよ。人一人消えてもおかしくない」
香西咲さんはこの忠言を受けいれませんでした。
保身に走ることはありませんでした。
自分の良心にしたがって行動しました。
限界状況に追いつめられたときに何をするのかで、人間の価値がきまります。
「(A氏が)どんどん新しい子を入れているのも分かっていたので、世の中のためにもなると思いました」
論語のなかに、つぎのような一節があります。
「驥(き)は其(そ)の力を称せず、其(そ)の徳を称す」
驥(き)というのは、1日に千里を走るという駿馬のことです。
訳します。
千里(非常に遠い距離)を走る名馬は脚力があるからたたえられるのではない。
徳性(道徳をわきまえた立派な品性)がすぐれているからたたえられるのである。
香西咲さんの徳性も、驥(き)と同様に、至高(この上もなく高いという意味)です。
ソクラテス(B.C.469年~B.C.399年)はアテネのアゴラ(広場)で、愚者たちに対して、
「誇り高き市民でありながら、魂をより善(よ)くすることに気をつかわず、金銭、評判、地位のことばかりを考えて、恥ずかしくはないのか」
とうったえました。
ソクラテスが終生、追い求めたものは、善(よ)く生きる、ということです。
友人のクリトンに対して語ったことばが印象的です。
ぼくには、香西咲さんがおっしゃっているように思えてなりません。
(田中美知太郎訳「クリトン」中央公論社刊より、引用。)
「大切にしなければならないのは、ただ生きるということではなくて、善(よ)く生きるということなのだ」
「「善(よ)く」というのは、「美しく」とか「正しく」とかいうのと同じだ」
「不正というものは、善(よ)いものでもなければ美しいものでもない」
香西咲さんは美しく生きています。
香西咲さんの魂は、燦然と輝いています。
気高いです。
これほどまでに美しいかたをぼくは寡聞にして存じあげません。
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■2016年07月07日 香西咲さんの特集記事(1)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月14日 香西咲さんの特集記事(2)が週刊文春に掲載されました。
■2016年07月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」)に出演されました。
■2016年07月20日 香西咲さんのインタビュー記事が、しらべぇに掲載されました。
■2016年07月27日 香西咲さんのインタビュー動画が、毎日新聞のWebサイトにアップされました。
■2016年07月29日 香西咲さんのインタビュー記事と動画が、毎日新聞のWebサイトに掲載されました。
(引用。A氏による衝撃の回答)
問「出演強要が社会問題化している。事務所の運営や女優との契約について見直しは?」
A氏「当然やっていく。今、弁護士と話して、きちんとしていこうとしている。」
(※A氏は、これまできちんとしていなかったことを認めました。)
■2016年08月27日 香西咲さんのインタビュー記事が、弁護士ドットコム(前編)・(後編)に掲載されました。
■2016年09月17日 香西咲さんがAbemaTV(みのもんたの「よるバズ!」【1】【2】【3】)に出演されました。
■2016年09月24日 香西咲さんのインタビュー記事(1)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月01日 香西咲さんのインタビュー記事(2)が、withnewsに掲載されました。
■2016年10月17日 香西咲さんのインタビュー記事(日本語訳)が、AFP通信のサイトに掲載されました。
■香西咲さんのツイッター
(香西咲さんの重要ツイート ~2016年7月18日)
私だって綺麗にリセット出来るならAVデビュー前の私に戻りたい。
だけど変えられない現状踏まえて立て直したのが今の形。(後略。)
(明日のブログへつづく)
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